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傍らの新妻を見つめる。
やっと、意識がはっきりしてきたようだ。
「夜叉!!」
「竜丸!!」
二人が激しく抱き合う。
「竜丸様」
二人の側に立つ陽炎が声をかけた。
三人の眼前では、追ってきた死人侍と無法丸が斬り結んでいる。
「異界の軍を元の世界へ帰らせてください。時がございません、お早く」
陽炎の言葉に竜丸は頷いた。
早急に事態を収拾せねばならない。
「将軍家の名において命ずる!! 異界の軍よ、元の世界へ帰れ!!」
竜丸が声を限りに叫んだ。
「ま、待て、やめろ!!」
まだ、苦悶の表情を浮かべ立ち上がれずに居る信虎が右手を伸ばし、竜丸に訴えた。
しかし。
もう遅かった。
空中の板は、徐々に地上に降りつつあった異界の軍勢が動きを止め、やがて赤い月へと逆戻りする姿を映し出している。
「駄目だ! 戻ってこい! わしの、わしの天下を統べる軍が! この信虎の異界の軍が!!」
ぼたぼたと汗を垂らし、わめき散らす信虎を見て、竜丸は思った。