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そして、その手に力を込める。
首を絞められ、夜叉姫の顔が歪む。
「もう、お前に用は無い。あの世で父親と再会するが良いわ」
呼吸を絶たれた夜叉姫の顔色が紫に変わっていく。
突然。
信虎の右手を掴んだ者が居る。
「な!?」
信虎が眼をむいた。
乗っ取られた竜丸の右手を止めた者。
それは信虎の左手であった。
左手の思わぬ力で、夜叉姫の首を絞めていた右手が緩んだ。
夜叉姫が呼吸を取り戻し、その場にへたり込む。
げほげほと咳をする夜叉姫。
みるみる、顔に赤みが戻る。
信虎の左手が、右手を離した。
「ちっ」
信虎が舌打ちする。
「竜丸め、くだらぬ抵抗をしおって!」
信虎が夜叉姫の肩を蹴り飛ばす。
「きゃっ!」と夜叉姫が転がる。
「小娘など、どうでも良い!!」
信虎は、事の顛末を見ていた空怪と「門鐘の巫女」たちへと顔を向けた。
「空怪!!」
呼ばわった。
「はっ」と空怪。
「巫女たちを連れて来い!」