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しかし、竜丸が必死の形相で、それを抱きしめる。
「これで将軍家は」
狂虎が竜丸へと顔を向けた。
「お前となったな、竜丸」
竜丸は、はっとなった。
忠久が殺害された今、将軍家は夜叉姫の夫、すなわち自分に他ならない。
では狂虎の狙いとは竜丸を将軍家にし、異界の軍勢を操る…いや、竜丸は狂虎の言いなりにはならない。
軍勢を呼べば、倒されるのは狂虎である。
(分からない…何故、私を将軍家に?)
竜丸の考えに感づいたのか、狂虎が口を開く。
「解せぬであろう、竜丸」
「………」
竜丸の腕の中では、わんわんと夜叉姫が泣きだした。
竜丸の胸に顔を埋め号泣する。
「お前は今や『門鐘の巫女』を使い異界の軍を呼び出せる。しかし、お前はそうはすまい。どうだ?」
「………」
「だが、わしは異界の軍勢が欲しい。その力で天下を統一し、手に入れる」
ついに。
狂虎が、己の野望を白日の下にさらした。
狂虎の両眼は血走り、興奮のあまり息が荒い。