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「ひぃ!!」
思いもしない事態に将軍家は刀を落とし、腰を抜かした。
顔が青ざめ、震えだす。
「だ、誰か!! 余を助けよ!!」
将軍家が、わめいた。
「ふふふ、誰も来ぬわ」
狂虎が笑った。
「近くに居る兵は全て始末してある」
「ば…馬鹿な…」
絶句する将軍家に狂虎が近づく。
「父上!!」
夜叉姫が叫び、父親に駆け寄ろうとするが、これは竜丸が無理矢理に抑えた。
将軍家の側に居た小姓が刀を拾い狂虎に斬りかかったが、甲虫の脚で、あっという間に串刺しにされる。
「天下を獲るには、お前は弱すぎる」
狂虎が将軍家を見下ろした。
「よ、余でなければ異界の軍を操れぬのだぞ!」
怯えながらも、将軍家が怒鳴った。
「ああ、確かにな」
狂虎が頷く。
「ついさっきまでは、お前だけが軍勢に命令できる者だった」
「何っ!?」
「お前は考え違いをしている。鳳武尊の異界の軍に指図できるのは、お前ではない。将軍家なのだ」
「ば、馬鹿を申すな! 余こそが将軍家なのだぞ!」
「いいや」
狂虎が首を横に振る。
「こうすれば、どうなる?」
狂虎の甲虫の脚が、将軍家の首を斬った。
「あ」
将軍家は驚いた表情で口を開け、首から血を流しながら倒れた。
そして、動かなくなった。
「父上! いやじゃ、父上!!」
夜叉姫が暴れる。