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可笑しくてたまらないのか、笑い続ける。
その様子に将軍家は表情を曇らせた。
「答えぬか、狂虎!」
「こんな阿呆は見たことがない」
狂虎が、ようやく答えた。
「?」
「分からぬのか」
「………」
「お前のような馬鹿は、どこを捜してもおらぬと申しておるのだ、忠久」
狂虎のあまりの手のひら返しに、一同は混乱した。
そして、それが収まってくると、皆の顔色が青くなった。
「狂虎!!」
将軍家の叱責にも、狂虎は悪びれた様子を見せない。
「天下に覇を唱えられぬ情けない将軍の元に、いきなり素性の分からぬ忠臣が現れ、あっという間に天下を手中に収める策を授ける」
狂虎はそこで一旦、間を置いた。
「そんな話が本当にあると思っておるなら、お前は馬鹿。馬鹿も馬鹿の大馬鹿よ」
「おのれ、余を愚弄するか!!」
将軍家が立ち上がり、太刀持ちの刀を手に取った。
警護の侍たちも皆、自らの刀に手をかける。
「ほう」
狂虎が言った。
「わしを斬るつもりか? お前の腕で、わしが斬れるかな?」
そう言って狂虎は立ち上がり、ずかずかと将軍家へと進んだ。
(やはり!!)
竜丸は思った。
(やはり、やはり!!)
おぞましき謀が存在したのだ。