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二人の前には上座に座る鳳忠久と太刀持ちの小姓、将軍家の警護の六人の偉丈夫な侍たちが並んでいる。
竜丸と夜叉姫のやや後ろには、仮面の下の血走った双眸で食い入るように婚儀を見つめる狂虎。
そして、さらに後ろには空怪によって、ひざまづかされた三人の「門鐘の巫女」が居た。
「神前」ならぬ「人前」の簡素な式であるため、婚礼は拍子抜けなほど、あっさりと終わった。
「これで、そなたたちは正式な夫婦ぞ」
将軍家が宣言した。
夜叉姫が、やおら立ち上がり、竜丸へと抱きついた。
竜丸を見つめるその瞳は潤み、熱い。
竜丸も嬉しかった。
が、一方では、この婚礼そのものに隠されていると疑っている陰謀が頭をよぎり、新婦を得たときめきとは違う胸騒ぎが、ぞわぞわと広がるのである。
「竜丸は、わらわの夫じゃ」
夜叉姫が無邪気に言った。
「これ、夜叉! 行儀が悪いぞ!」
さすがに声を上げ、娘を注意した将軍家ではあるが、やはりかわいさに甘くなるのか、その口調はそこまで激しくはない。
表情も笑顔である。
「さあ、では狂虎」
将軍家が家臣へと視線を移した。
「『門鐘の巫女』の力で異界の軍を呼ぼうではないか」
「ふふふ」
狂虎が笑った。
「どうした、狂虎?」
「ふふふ」
狂虎は答えない。