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ぐったりとなった竜丸を見つめる。
「いや」
蜜柑が口を開いた。
「竜丸を眼の前にして、逃げるなんて出来ない! ボクは弟を取り戻す!」
再び蜜柑が一歩を踏み出した瞬間、藤十郎の魂との繋がりが、ぶつりと切れた。
藤十郎が半透明から白い煙へと変化する。
「姫様! ご武運をお祈りいたします!」
藤十郎が、もやもやと拡散し、その姿を消した。
「お。幽霊が居なくなったぞ!」
飛刃が笑った。
「これで娘の始末は簡単になった」
両手に持つ六本の刃を構えた。
このままでは飛刃が刃を投げた時点で、蜜柑の死が確定する。
しかし蜜柑は退かない。
口を真一文字に結び、飛刃に向けて歩を進める。
蜜柑の瞳が銀色に輝いた。
その頭上に白い煙が、たゆたい始める。
白煙は筋骨隆隆の法師姿に形を変えた。
「おお」
腕丸が驚きの声をあげる。
「小娘がまた、霊を呼んでおる! 早う殺せ、飛刃!」
空怪が慌てた。
「そなたの名は!?」
蜜柑が問うた。
「虎然」