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ある程度の覚悟をしていたとはいえ、やはり婚礼を祝う客も居ない簡素な式を行うのは、我が娘に対して何やら申し訳ない気持ちもあった。
本来ならば盛大な式を挙げさせてやりたい。
「忠久様。まずは天下を将軍家に獲り返すのが肝要。他のことは全て後回しにされるべきかと」
狂虎の進言に将軍家は渋々、頷いた。
(天下を獲ることは夜叉姫のためでもある)
将軍家は己をそう納得させた。
それを見た狂虎は間髪入れずに呼ばわった。
「今すぐ、夜叉姫様の婚礼の儀を執り行う! 準備を始めよ!」
狂虎の口元は、必死に笑いを噛み殺しているように見えた。
「では、あなた様は蜜柑様!?」
陽炎が驚きの声をあげた。
時は夕刻。
蜜柑たちの待つ場所に現れた陽炎と無法丸に武龍の名を告げたところ、お互いの事情を話し合うこととなった。
蜜柑が頷く。
「武龍は、あなたたちがボクたちに協力してくれると」
竜丸と共に救出すべしと考えていた蜜柑との出逢いに、陽炎はしばし戸惑ったが、すぐに気を取り直すと「もちろんです」と頷いた。
背後の無法丸を見る。
「俺は最後まで付き合う。乗りかかった船だからな。しかし…」
無法丸が蜜柑、隼人、春馬を順に見つめていく。
「お前たちみたいな子供が、よくここまで来れたな」
「子供じゃねぇ!!」と隼人。