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「その娘をこちらに渡せば、お前に力をやろう」
狂虎が言った。
「お前が約束を違えれば、必ず殺す」
静香が言った。
「わしを殺す? ふふふ、そんなことは出来ぬ。少なくとも、お前にはな」と狂虎。
静香が奇妙斎へと向き、相対した。
静香の剣気が奇妙斎に絡みつく。
「やめてください、静香様!」
桜の叫び。
「本気か、きれいな娘さん?」
奇妙斎が訊いた。
「ああ、本気だ」と静香。
「何と、まあ」
奇妙斎が呆れる。
「とんでもない業を背負い込んだもんじゃのう。そんなに望みを叶えたいか?」
「ああ」
「狂うておるな」
「ああ、私は狂っている」
静香が、にやーっと笑った。
髪の毛が逆立ち、双眸が青い強烈な光を放つ。
「今まで気づかなかったのか?」
「まったく」
奇妙斎が肩をすくめた。
「面倒じゃのう」
静香が動いた。
長刀を抜き放ち、奇妙斎に真っ向から斬りつける。
が。
その刃は奇妙斎のなまくら刀によって、しっかりと受け止められた。
「な!?」
静香は驚愕した。
あり得ない。
本来であれば、なまくら刀は折れ、すでに奇妙斎の首は、はねられているはず。
剣気では静香が圧倒しているというのに、奇妙斎は何やら飄々として、どこ吹く風である。
「しんどいのう」
奇妙斎が愚痴をこぼす。
「二十年前ならのう」