151
狂虎の両眼が、がっと開いた。
仮面の二つの穴が真っ赤な光を放つ。
「ぬっ!?」
静香が身構える。
「そうか、そうか」
狂虎が言った。
「お前は日の本が斬りたいのか。そうであろう?」
「な!?」
静香が驚いた。
胸に秘めし野望を言い当てられたのは、生き返った際の武龍以来だった。
「お前を生き返らせた者は、日の本を斬ることや非道を禁じたのではないか?」
図星であった。
静香は黙った。
「おそらく約定を破れば、再び死ぬと。そういう取り決めであろうが?」
狂虎が舌舐めずりした。
「ふふふ、隠さずとも良い。この狂虎には全てお見通し」
「………」
「では、こういうのはどうだ? わしが、お前に新しい命と力をやろう。さすれば、前の者との約定は反故にしても何も不都合は起こらぬ。そして、お前は望み通りに日の本を斬れる」
この言葉に静香の身体が、ぐらりと揺れた。
「静香様!」
桜が静香の背中へと、しがみついた。
桜は必死の形相である。
「お前に、そんな力があるというのか?」
絞り出すような低い声で静香が訊いた。
「ああ、もちろんある。わしの気配で、もう分かっているであろう。お前を生き返らせた者とわしは同じ穴のムジナよ。奴に出来ることは、わしにも出来る。そして、わしはつまらぬ約定でお前を縛ったりはせぬぞ。好きなだけ日の本を斬るが良い」
再び、静香が揺れた。
「静香様!」
呼びかける桜を奇妙斎が自分の方へと引っ張った。
奇妙斎が静香と桜の間に立つ。
「嫌な流れじゃのう」
奇妙斎が顔をぽりぽりと掻いた。
渋い表情だ。
静香から激しい剣気が立ち昇った。