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陽炎が口を開いた。
「鬼道城へ戻りましょう」
蜜柑が武龍に指定された森の一角。
闇夜の中、隼人が番をする焚き火から、やや離れた場所で春馬は一人、頭上を見上げている。
蜜柑たちはこの場所へと今日たどり着き、武龍の言いつけを守り、後に現れる二組を待っていた。
「春馬」
木々の間から春馬の名を呼んだ者が居る。
蜜柑である。
春馬が蜜柑に顔を向けた。
その瞳は何故か、きらきらと輝いている。
「どうしたの?」と蜜柑。
春馬は答えず、右手を伸ばし、蜜柑の左手を握った。
「え?」
蜜柑が驚き、顔を朱に染めた。
春馬が蜜柑を引き寄せる。
二人の顔が触れ合わんばかりに近づいた。
「春馬?」
春馬が頭上を向く。
「蜜柑さん、ここから見てみて」
春馬が笑顔で言った。
蜜柑が春馬に従って、空を見上げると。
蜜柑は息を飲んだ。
夜空には無数の星が広がっていた。
「そうだ!」
春馬が蜜柑を引っ張って走りだした。
「春馬!?」
しばらく進むと木々がまばらな場所へと出る。
「ここなら、もっとよく見えるよ」
二人は頭上を見上げた。
「わあ!」
先ほどよりも、さらに広々とした星空が、地上に降り注がんばかりに輝いていた。
春馬がその場に座り、蜜柑の手を引いて隣に座らせる。
二人は身を寄せ合って、美しい星たちを眺めた。