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鬼麿が、にやりと笑う。
「今日は絶対に逃がさない。八つ裂きにしてやるよ」
鬼麿の両眼が、ぎらついた。
刀を抜いた無法丸が、前へと走る。
陽炎と操を戦いに巻き込まぬ配慮であった。
鬼麿の身体が、ばりばりと変化し始めた。
着物が破れ、あっという間に上背七尺の鬼が現れる。
鬼麿が右手を無法丸に投げつけた。
掴みかかる爪を無法丸の刀が弾く。
やはり、右手は空中を旋回し、再び無法丸へと襲いかかった。
「あはは!」
鬼麿が笑った。
「もう容赦はしない! 本気を見せてあげるよ!」
鬼麿は、そう言うと自らの左前腕部に噛みついた。
そして。
己の左腕を肘から引きちぎった。
右手のときと同じく、血は一滴も出ない。
首を振り、左手も無法丸に投げつけた。
無法丸が刀で受ける。
弾かれた左手も右手と同様に宙を舞い、攻撃に加わった。
両手の無い鬼麿が無法丸へと突進する。
大口を開け、牙で噛みついた。
無法丸は、さっと横に跳んだが、そこに両手が突っ込んでくる。
あらゆる方向から一度に襲われる三重攻撃の地獄。
これではまったく、気を練る余裕が無い。
鬼麿の右の爪が無法丸の額を、左の爪が太ももを、牙が脇腹をそれぞれかすめる。
(これは…もたない…)
さすがの無法丸も顔を歪めた。
無法丸の窮状を見た陽炎が前へ出ようとする。