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操は三十代前半の女である。
無法丸は操の鍛治場を見て、亡き恋人、日向を思い出した。
が、せんなきことと首を横に振る。
「確かに魔祓いの石を付けた首飾りは今日、完成したが…」
操は明らかに戸惑っていた。
「このことは誰も知らぬはず。それなのに、もう欲しがる方が現れるとは…」
あまりの偶然に驚いているのだ。
(しかし、これは偶然ではない)
陽炎は思う。
(全て、武龍様が見越したことなのだ。早く首飾りを持ち帰らねば、竜丸様や蜜柑様、いや、この世そのものが危ない)
陽炎は、くっと口を真一文字に結び、操に深々と頭を下げた。
「何とぞ、私にその魔祓いの石をお貸しいただきたい」
陽炎の態度に操は慌てた。
「いえいえ」
陽炎の肩に触れ、身を起こさせる。
「私は世の中の『魔』を少しでも倒せればと、この仕事をしているのです。京で修行し、思うところあって師の元を離れ、ここで魔祓いの道具を造り始めたのですが…」