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それから三日経った夕方が今である。
「春馬、これは何のまねだよ」と隼人。
蜜柑と隼人は、あまりの煙たさに堪らず、春馬から離れている。
春馬は布を鼻と口に当て、煙を吸い込まないようにしていた。
「薬だよ」
春馬が答えた。
「薬? 何の!?」
「殺虫の薬!!」
そう言って春馬は「エレメントシェル」を取り出し、煙に向けた。
出っ張りを押し、煙を吸い込ませる。
春馬が二人の方へと走ってきた。
「これで良し!」
春馬は、にっこりと笑った。
「おい、虫除けぐらいで『エレメントシェル』を使うなよ」と隼人。
「ふふふ」
「何だよ?」
「まあまあ、後で分かるから」
自信満々な春馬に、蜜柑と隼人は首を傾げる。
「さあ、出発しよう!」
春馬に急かされて、三人は歩きだした。
雑木林の道をしばらく進んだところで。
隼人が足を止めた。
他の二人に目配せする。
「出てこい!」
隼人が大声で呼びかけた。
「居るのは分かってるぞ」
前方の木の後ろから一人の男、否、少年が現れた。
藍色の着物に身を包んだ武士の風体。
刀は脇差しのみ。
眼の部分を隠す白い仮面をつけている。
「誰だ?」
「私は武龍」
隼人の誰何に少年が答えた。
子供らしからぬ落ち着いた声だ。
「俺たちに何の用だ?」
隼人が言った。