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二人に付いた侍女たちは夜叉姫の勘気を恐れ、天守閣の中で控えている。
丁度、死角になっているのか、女たちは何も言わなかった。
竜丸の唇が夜叉姫の唇に、あと少しで触れるところまできた。
「竜丸…」
夜叉姫が小さな声で言った。
二人は唇を重ねた。
しばらく後、顔を離した竜丸に夜叉姫が真っ赤になって囁いた。
「このことは誰にも内緒じゃぞ」
「げほげほ!」
蜜柑と隼人は咳き込んだ。
春馬が集めてきた得体の知れない草や葉をもやし、大量の煙を発生させているためであった。
場所は虹丸と澪の小屋から、さらに上流。
三人は分かってはいないが、鬼道城へと続く道である。
虹丸と澪は三人のせいで襲われたのにもかかわらず、文句のひとつも言わず、食べ物まで持たせ、見送ってくれた。
「また、いつでもおいで」
澪は、そう言って満面の笑みを浮かべた。
虹丸も言葉は発さないが頷いている。
三人は心の底から二人に感謝し、再び旅へと出発したのだった。