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「祝言が無事に終われば竜丸の父上と母上に、わらわも会いに行きたい。竜丸には兄弟はおるのか?」
夜叉姫が訊いた。
「はい。姉が」
「おお、姉上か」
夜叉姫が、ぱっと笑顔になった。
かわいいと竜丸は思った。
竜丸の頬が赤く染まる。
「わらわは兄弟がおらぬ。母上は、わらわが幼き頃に病で亡くなられ、父上も常にお忙しい。わらわは、いつも独りぼっちなのじゃ」
竜丸は、はっと気づいた。
竜丸の人生に突如、現れたこの想い人の孤独に。
その言い知れぬ寂しさに。
「じゃが、これからは、わらわには竜丸がおる。もう竜丸とは一生、離れぬ。どこまでも一緒じゃ」
「夜叉姫様」
竜丸は気づけば右手を伸ばし、夜叉姫の頬に触れていた。
「あ」
夜叉姫が頬を赤らめる。
(これから、どんな恐ろしいことが起ころうとも夜叉姫様は、この竜丸がお守りせねば)
決意をした竜丸の瞳が、食い入るように夜叉姫を見つめる。
竜丸が顔を夜叉姫のそれに寄せた。