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燃え上がる欲望に身を任せる二つの影から、やや離れた場所で焚き火の前に座る奇妙斎が、にこりと笑った。
「青いのう。青い、青い」
そう呟いた。
燦然と輝く太陽、そして晴れ渡った青空の下、鬼道城の天守閣の外側の回廊部分、高欄付廻縁に立つ二人の若人が居た。
竜丸と夜叉姫である。
「なかなか壮観じゃな」
夜叉姫が言った。
夜叉姫の右手は竜丸の左手と繋がれている。
竜丸は頷いた。
竜丸の住んでいた元大山城、現小諸城は、規模的には鬼道城の七割ほどのものであった。
よって天守閣からの景色は今、見下ろしているほどの壮快さには及ばなかった。
鬼道城が小諸城よりも大きな山の上にあるのも、その差となっていた。
「うふふ」
夜叉姫が笑った。
「竜丸、目を丸くしておるな」
竜丸の顔を覗き込んだ。
「しかし、わらわの住んでおる鳳城は、この倍は大きいのじゃぞ」
「ええ!?」
竜丸は息を飲んだ。
そんな大きさの城など想像も出来ない。
今まで鳳家に対して、世を掌握しきれない実力不足の将軍家という印象を持っていたが、京の付近で覇を競う大名とは、やはり地方のそれとは違う財力を持っているのだと竜丸は痛感した。
「わらわと夫婦になれば、竜丸は鳳城に住むのじゃ」
夜叉姫は心底、嬉しそうである。