123/204
123
「この傷を見よ」
静香の右手が、自らの首の傷を指す。
「私はすでに一度、死んだのだ。もはや、人ではない。ただ、斬って斬って斬りまくるためだけに生き返った。そんな私が恐ろしくはないのか?」
静香の瞳が青く輝く。
光は、さらに強まる。
すさまじい殺気と、人ならざる者の妖気にも桜は怯まなかった。
「恐れているのは静香様ではありませんか?」
何ということか。
今すぐにも、自分を斬り捨ててもおかしくはない殺気を放つ魔人、静香に対して、純朴さのみを研ぎ澄まし生きてきた、戦う術も知らぬ若い娘が真っ向から挑みかかったのだ。
静香の魔気、殺気、剣気が膨れ上がり、渦を巻き、混じり合う。
怒りで静香の髪の毛が広がり、逆立つ。
双眸が爛々と青い炎を灯す。
「男が汚らわしいと仰られていましたね」
桜は退かない。
「昔、静香様に何かあったのでしょう?」
この言葉で静香の脳裏に、母と抱き合う男の背中が甦った。
それは父の姿ではない。