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妙な感触。
胸を触られているような…?
否。
それは現実。
桜を抱き抱えた奇妙斎の右手が、胸を触っていた。
奇妙斎は涼しい顔で口笛を吹いている。
「きゃーーーっ!!」
桜の右手の豪快なびんたがうなりを上げ、奇妙斎の左頬を打った。
「いったーーっ!!」
奇妙斎の首が回る。
「わっ。ごめんなさい」
謝らなくてもいいのに、桜が謝る。
奇妙斎の首が、ぐるりと元の位置に戻った。
両の鼻の穴から流れる血は、桜のびんたによるものか、はたまた胸を触った興奮によるものか?
「いや、わしはこういうのは、けっこう好きなんじゃ」
二人は森の木々の中へと駆け込んだ。
後ろから追う五人の忍びの巨大手裏剣は太い木々の幹さえ、ものともせず切り倒しながら進んでくる。
ついに二人の真後ろまで迫った。
「奇妙斎様! 危ない!」
桜が叫ぶ。
手裏剣が突っ込んだ。
まるで背中に眼があるかの如く、奇妙斎はぎりぎりのところで、ぽーんと跳び上がり、そのまま手裏剣の上に乗った。
これには五人の忍びが、度肝を抜かれる。
「うん?」
奇妙斎が忍びたちの顔を眺めて言った。
「皆、同じ顔をしておるな」
「殺せ!!」
我に返った一影が叫び、五人が一斉に抜刀する。
斬りかかる五つの刃を軽妙な動きでかわした奇妙斎は、手裏剣の進行方向とは逆に走り、下へと飛び降りた。