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まるで手入れしていない、くせが強く、ねじれきったぼさぼさの黒髪。
陽に焼けた浅黒い大きな顔には、これもまた大きな鼻、口、そして大きいながらも存外、かわいらしいくりりとした両眼が鎮座している。
三十代後半か。
頭上から降り注ぐ太陽の光が、拳法の肌をつやつやと輝かせる。
「お前が例の女剣士か?」
拳法が相対する静香に問うた。
野太い声だ。
静香は答えない。
静香の後ろには桜と奇妙斎。
場所は森の木々が途切れ、見通しが良くなった平地である。
「『門鍾の巫女』を渡してもらおうか」
無視されたことは歯牙にもかけず、拳法が続けた。
「断る」
静香が即答した。
拳法が、にやりと笑う。
「良かったぜ」
「………」
「『はい、そうですか』と女を返されちゃあ、こっちが困るところだ」
「………」
「俺はお前と死合うためにわざわざ、こんな所までやって来たんだからな」
拳法が静香へと歩きだす。