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忍びである陽炎が、これほど分かりやすい跡を残しているのは、敵に追われる危険も加味したうえで無法丸に自分の居場所を教えるための賭けであろう。
そして、ここからの痕跡がひとつだけ、すなわち陽炎だけのものになったということは、この賭けに無法丸たちが勝ったという証だ。
すみやかに陽炎と合流しなければならない。
あとは追ってくる鬼麿だけが問題だが。
腕を飛ばしてくる技と、こちらの攻撃を受けつけない鋭い爪を何とかせねば勝ち目は無い。
そして、今のところ。
無法丸には、まるでその方法が思いつかないのだった。
「俺は拳法」
太い腕を胸の前で組み、男が言った。
「豪破拳法」
静香よりも、やや上背がある。
下半身も鍛えられてはいたが、注目すべきは上半身の異常なまでの筋肉量であった。
修験者装束は袖の部分が肩口で破られ、並の男の腰ほどはあろうかという両腕は、むき出し。
胸、背中、首、全てが厚く、盛り上がっている。