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陽炎の刃が無法丸の背中に刺さると思われた、刹那。
無法丸が座った体勢から振り向きざまに刀を鞘走らせ、陽炎の首を斬った。
「むうっ!?」
陽炎が頸動脈から血しぶきを上げる。
その姿が、ぐにゃぐにゃと変形し、化彦になった。
「な、何故、見破った!?」
化彦が、うめく。
「見た目は完璧だが」
無法丸が答えた。
「俺たちの行き先は陽炎しか知らない。お前が先導せず、おかしな言い訳をしたのはまずかったな。それと」
無法丸は自分の両眼を右手の人差し指と中指で、指し示した。
「陽炎の眼は、お前の眼とは違う。形は真似られても、そこに映っているものが違う。それで偽者だと分かった」
「そ、そんな…」
化彦が、がくりと倒れる。
陽炎の着ていたものとよく似た忍び装束まで用意した化彦だったが、それでも結局は見破られた。
無法丸は化彦の着物を脱がせ、畳み、自らの持ち物を入れる袋へとしまった。
「さてと」
再び陽炎の痕跡を探す。
あった。