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もしも陽炎を追跡している敵が居るとするなら、急がねばならない。
そして、無法丸の後方からは鬼麿が追ってくる可能性が強い。
山道はなだらかに下り、やや大きめの道と合流した。
無法丸が、そこにさしかかったところで。
「良かった、無事で」
陽炎の声がした。
横合いから忍び装束の陽炎が現れた。
無法丸は、ほっとした表情を見せた。
ともかくも、別々に襲われる危機は去った。
「敵が後を追ってくる」
無法丸が言った。
「早く行こう」
「ええ」
陽炎が頷く。
だが、動かない。
妙な沈黙が流れた。
無法丸が陽炎の瞳を見つめる。
「どうした? お前が先導してくれ」
「ああ…」
陽炎が眼を細めた。
「少し脚を痛めてしまって…」
「そうか」
無法丸が陽炎の横を過ぎ、背中を見せる。
しゃがみ込んだ。
「おぶってやる」
「ありがとう」
そう言った陽炎の顔は、にやにやと笑っていた。
懐から小刀を取り出し、無法丸へと近づく。
小刀を振り上げた。