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「また、邪魔だと!?」
空怪が平伏し、頭を床に擦りつけた。
この激情家の主を怒らせてはならない。
自分など、一瞬で殺されてしまうだろう。
空怪は、離れた場所へ一瞬で飛べる能力を狂虎から授かっていたが、たとえ全力を駆使したとて、眼前の狂える主人から逃れられる気が、まるでしないのだった。
(この御方は我らとは違う。まさに魔王そのものに相違ない)
空怪は心底から狂虎を恐れている。
今は狂虎は将軍家に、へつらっているように見えるが、それは何か事情があってのことだろう。
そもそも誰かの下に立つ人物ではない。
必ず大きな企みがあるはずだ。
「恐ろしく強い女剣士が現れ、赤蜘蛛と白帯を斬ったと。白帯は無論、狂虎様のお力にて無事ですが…」
「女剣士だと?」
「は。人とは思えぬ強さとか。自分が負けたゆえ白帯が大げさに言っておるやもしれませぬが」
「人とは思えぬ…」
狂虎が顎に手を当て、沈思した。