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そこには包帯と着物と刀のみで、先ほどまであったはずの死体が消えていた。
「そんな馬鹿な!?」
そう言って春馬が駆け寄った。
地面や刀をつぶさに調べる。
刀に付着している茶色の汁をまじまじと見つめた。
「これは…ひょっとして…」
春馬は座ったまま、ぶつぶつと何かを呟き始めた。
「おーい!!」
突然、川の向こう側から呼ぶ声がした。
「あ、隼人!!」
蜜柑が気づき、手を振る。
林から出てきた隼人が両手を振りながら、こちらへと走ってくるのが見えた。
鬼道城の、ある一室。
一人の男が落ち着かない様子で、行ったり来たりを繰り返していた。
狂虎である。
室内は四方のろうそくの灯りで照らされ、狂虎の影がゆらゆらと揺れている。
狂虎の下座には、空怪が控えていた。
「『門鍾の巫女』の最後の一人は、まだか?」
狂虎が言った。
苛立っている。
「はっ」
空怪が頭を下げた。
「どうやら邪魔が入ったようでして」
「邪魔!?」
狂虎の瞳が血走る。