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そう言うと詩音は再び歩きだした。
陽炎の横を通り過ぎ、木々の中へと、しずしずと歩いて行く。
その姿が、やがて見えなくなった。
「………」
唖然としている陽炎だけが、その場に残された。
結局、洞窟の中で、ひと眠りした蜜柑と春馬は再び出口を求めて出発した。
ほどなく洞窟は終わり、すでに昇っていた朝日の光が外へと二人を導いた。
出た先には川が流れている。
蜜柑と春馬は、乾いた喉を潤した。
二人は川を下流に進んだ。
「早く隼人と合流したいけど」
春馬が不安を口にする。
蜜柑の霊力で居場所が分かるのは弟の竜丸のみである。
今のところは、どうしようもなかった。
しばらく進むと川沿いに小屋が建っているのが見えた。
小屋の前には小さな畑が作られ、数種の野菜が植えられていた。
小屋の前の川に、一人の男が立っている。
小柄な男だった。
二十代後半か。
短髪で愛嬌のある丸顔。
両眼が大きく、だんご鼻、唇が厚い。
百姓姿だった。