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デブの異世界英雄記  作者: 大岩 太
第一章 旅の序曲
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リブドールの街

「うおおお……! で、でででっけぇ……!」

 僕達は昨晩砦を抜けた先の町、リブドールに到着し、そこの宿屋に一晩泊まり、今、リブドールを歩いていた。リブドールは王都ほどでは無いにしろ、比較的に大きい町だ。様々な武具屋が揃っていたり、魔物討伐依頼の受注所があったり、他にも娯楽施設や大きな宿屋で賑わっている。

「あんまはしゃがないで」

 フードを被り顔を隠すアリエッタ。何でいつも日中、顔を隠しているんだろう。僕と違って追われているわけでも無いと思うんだけど。


「着いたわ」

 目の前にあるのは売却所。僕達は中に入っていく。


「いらっしゃいませ。お客様、初めて見る顔ですがぁ、旅人さんで?」


 様々な魔物の皮や角だったりが並ぶ店内はどこか異様な光景に感じたが、この世界の人にとっては割と普通の光景らしい。その奥に、猫背で痩せ気味の気難しそうな男が立っている。


「ええ、砦を抜けてここに来たの。これ、いくらで買い取れるかしら」

 アリエッタは砦で倒したスライミー達の目玉、黄色の玉を大量に取り出す。

 男はその一つ一つをジィーッと見ている。

「スライミーの目玉30個、ね。300デルになるよ」

 男はアリエッタに銀のコイン? のようなお金を三枚渡す。この世界のお金の知識が無い僕は高いのか安いのかもわからない。


 売却所を出るとアリエッタは説明してくれた。300デルは大体良い宿屋なら一泊できるくらい。小さな宿屋なら15デルで泊まれるらしい。僕が首を傾げていると、300デルはかなり安い金額、と教えてくれた。かなり苦労して倒したスライミーがこの価値……。あのスライミーが最弱の魔物というのは、あながち間違いでは無いらしい。他の魔物はもっと強いと考えるとゾッとする。恐らくアリエッタと出会ってなかったら僕はあの暗殺者から逃げ延びたとしても、すぐに殺されていただろう。


「活動資金が足りなすぎるわ。最低でも3000デルは必要ね。装備を整えるとなるともっと必要になるけど、お前の力だと鎧なんて着たら歩けないでしょう?てか、まず入らないわね」

「うあっ、ちょ、やめて……」

 アリエッタが僕の腹の肉をぐわしっと掴む。何かくすぐったいやら痛いやらで僕は変な気分になる。僕がもじもじしていると彼女はパッと手を離す。

 装備に関しても、ゲームのように簡単にはいかないらしい。良い装備を着用するには、それなりの実力が無ければまともに扱うことすら出来ない、ということか。

「ねえ、魔物の討伐依頼って報酬出たりしないのかな……?」

 僕がそう提案するとアリエッタは真っ向から反対する。

「嫌よ! また私を酷使するつもり? 討伐依頼に出される魔物って、昨日のスライミーより遥かに強い厄介者ばかりなの! 自分の実力考えてから言って」

 そうは言いつつも、何か簡単そうな依頼が無いかと依頼受注所へ行ってみる。


「イッカクリュウの討伐……リクオウガニの討伐……駄目よ、強い旅人が5人くらい揃ってやっと受けられるようなものばかりだわ」

 すると、彼女はある依頼を見つける。

「オークの、討伐……」

 それを見た途端、アリエッタは僕をじーっと見る。

「ぷっ……お前そっくり」

 アリエッタが馬鹿にするように笑った。そういえば、僕、アリエッタの笑顔を見たのは今が初めてかもしれない……。

「顔真っ赤だけど、何?」

「え!? あ、な、何でもないよ!」

 悔しい。思いっきり馬鹿にされてるってわかってるのに、一瞬可愛いと思ってしまった。そういえば、初めて会った時もこの娘可愛いなって思ったっけ。ああ、けどその後すぐ好みじゃないって言われたなぁ。少し胸にズキッとくるものを感じながらも、簡単そうな依頼を探しているアリエッタの横顔を見る。


「……!これ……!」

 アリエッタが一枚の依頼書を手に取る。それを見ると、砦に住み着いたスライミーの討伐、と書かれていた。僕達が通ってきた砦にいたスライミー達のことだろう。報酬なんと、4500デル!


 僕とアリエッタは受付にさっそく依頼書を持っていく。しかし、報酬を受け取るには証拠が必要で、先程の売却所に行ったりと手間がかかってしまったが、何とか4500デルを受け取ることが出来た。

 それと同時に僕のお腹がぐぅ、と鳴る。

「……お腹空いたの?」

「うん……!」

 僕とアリエッタはそのまま大きな宿屋の一階の酒場へ行き、食事をすることになった。


「お待たせ致しました……。ジューシィカウのステーキになります」

 僕は現実でいう牛っぽいモンスターのステーキを選択した。脂身がたっぷり乗っており、肉の量もかなりのものだ。肉が来るなり僕はそれにかぶりつく。ジューシーな肉はかぶりつくと同時にその肉汁を放出し、僕の口の中に一気に肉の味が広がる。

「食べ方が汚い。そんなだから太るのよ」

 アリエッタはパスタのようなものを頼んでおり、それをフォークにくるくると巻き上品に一口ずつ食べていた。

 アリエッタの口元を見ると、何か尖った牙のようなものが見えた。

「何見てんの? 喧嘩売ってる?」

 怒ったので目を逸らす。あれは僕の見間違いかな……。そう思うことにした。


「ね、ねえ、旅を続ける上でさ、仲間ってもう少しいた方がいいんじゃないかな……。ここ、強そうな人もたくさんいるし……」

 僕は周囲を見ながらそう提案する。正直、今の戦力だけじゃ不安だ。

「無理。魔物に支配された土地に行こうとしてるって言ってついて来る奴なんていないわ。せいぜいお前みたいな世間知らずくらいね」


 そういうものなのか、と僕が思っていると皮の防具と剣を携えたガタイのいい2人の男が声をかけてきた。

「よぉ~、お嬢ちゃん、向こう側の世界に行くつもりだって?」

「俺ら結構腕が立つからさァ、仲間んなってやってもいいぜぇ?」

 明らかにガラの悪い二人組だった。僕は手を上下にパタパタ動かしあわあわしてるだけで何も出来ない。

「貴方達信用できないから却下。視線で丸わかり。人気(ひとけ)の無いところに行ったら豹変するタイプね」

 そうズバッと言うアリエッタ。男達は腰の剣に手をかけるが、周囲の視線を感じたのか引き下がる。本来なら僕がここで男達にやめろよ! と言えれば良かったのだが、ビビッてしまった。

「ご、ごめん……」

 情けなくなって僕は謝る。

「何が?」

 きょとんと首を傾げるアリエッタ。僕に男らしさとかそういうのを期待して無いんだろう。なんか僕だけが意識してるみたいだ。

「あのさ、私、お前に守ってもらおうとか思ってないから。別に付き合ってるわけじゃないし」

 アリエッタは僕に気を遣ってそう言ったのだろうけど、これは更なる追撃になる。僕はとても心が痛い。

「う、うぐぅぅ……」

「……戦い方、少しくらいは教えてあげてもいいけど」


 アリエッタは僕にそう言うと席を立つ。彼女についていくと、人通りのない薄暗い裏道に着いた。




 ────────

 ────


 同刻、ムーラ村にて。



 魔物の脅威が無くなってからムーラ村は以前のようなのどかな村に戻っていた。しかし、村の入り口に村人達が集まっている。


「……?」


 家から出たリイは人だかりの方に向かっていく。すると、そこには王都から来た兵士達がやってきていた。それだけなら良かったのだが──。


「愚民共、答えろ!! 勇者フトシがこの村に立ち寄ったはずだ……。奴は肥満体型の男で仲間として女を連れている!」


 兵士達の先頭に立つ、金色の装飾のついた赤い高貴な服を着た男。金髪を整え、髪で頭の上に巻き角? のようなものを作りスラッとした痩せ気味のその姿はこの国にいる者なら誰もが知っているものだった。


「オージ……王子……!」

 村人の誰かがその名前を口にする。


「んん~? そう! 俺様は王子だ!貴様ら愚民とは違い、高貴で優雅な王子様さ!! フハハハハ、俺様の偉大さを讃えるがいい!」

 彼は自身が王族ということを心底誇りに思っており、自分以外の全てを見下していた。しかしそれが行き過ぎており、その傲慢過ぎる態度に国王も手を焼いている。


「で? 勇者フトシが逃げるとしたらこの村だと思うんだが、まさか俺様に隠してるってわけじゃないよなァ?」


「知りません!」


 村人達が皆口を閉ざしていると、リイはオージ王子に向かってそう言った。

「……何だ~? この俺様に対して反抗的じゃないか女ァ」

「お、お待ちください王子……! その剣は王家に伝わる由緒正しきもの……村人などの血で汚しては……!」

 オージ王子はその場で剣を抜くと兵士達が止めるのを無視し、そのままリイの眼前まで歩いて行き、彼女の喉元に剣を突き立てた。

「……私は、勇者フトシなんて知りません!」

 リイは一歩も引かず、オージ王子に真っ直ぐに視線を向ける。オージ王子は目を細め、リイをジッと見る。


「オージ王子、私達も勇者フトシなど知りませぬ」


 村長がリイの隣に立ち、そう言う。すると村人達も皆口々に知らないと言い出す。


「くっ……! お前達、オージ王子の前で嘘をつくか……! これを国家への反逆とみなしても良いのだぞ!」

 兵士達は皆、剣に手をかける。


「待て、お前ら」

 兵士達が剣を抜こうとしたタイミングでオージ王子が兵達を止める。


「お、王子……?」


「この愚民共の発言が嘘か真かなどどうでも良くなった……。もし知っていて庇っているのだとしたら、勇者フトシとは愚民共がこの俺様を前にしても庇うほどの人望の持ち主ということだろう? 俺様はすぐにでも勇者フトシに会いたくなったぞ」

 オージ王子は剣を鞘に納めると、兵士達と共に村を出て行く。


「……私達の村を救ってくれたあの人達、本物の勇者、だったのですね……。 けど、あのオージ王子は……どうか、どうか気を、つけて……」

 リイはオージ王子一行の後ろ姿を見ている。彼らの向かう方角には、太達のいるリブドールがある。


 リイは太達が無事でいることを、ただ祈った。

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