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デブの異世界英雄記  作者: 大岩 太
第一章 旅の序曲
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現実でも異世界でも……

 僕はこの世界できっと伝説の勇者となり、かつて思い描いたようなハーレム生活を送ることになる。そう、これは神様が僕に与えてくれた慈悲なんだ!

「あ、えと、何故、僕はここに召喚されたのですか……?」

 とりあえず王様? に事情を聞いてみる。もっとビシッと聞きたかったのだが、人と話すのが苦手で思ったように声が出ない。これじゃただの挙動不審な豚だぞ。

「うむ……そうだな。だが、事情を話す前にお互い名を聞いておいても良いだろう。私は、ラナティス王国第十四代国王、オーゴク=リュナクレジオ=ラナティスである。して、お主の名は」

 まさに国王、と呼ぶに相応しい長い名前と堂々とした態度。ならば僕も……。

(ふとし)……大岩(おおいわ) (ふとし)です」

 今度は自分なりに堂々と言えた気がする。

「……フトシか。その名の通りに逞しい肉体のようだな」

「い、いやぁそんな……はは」

 まさかここでも体型について馬鹿にされるなんて最悪だ。しかし今は耐えよう。僕には楽園が約束されているのだから。

「では、我々の事情を説明するとしよう。現在、このラナティス王国を含め人間界は危機に瀕しておる」

「危機、ですか……」

「現在、この世界の約半分が魔物によって支配されていてな……お主には、それを何とかしてもらいたいのだ」

 ここまで王道の展開だと拍子抜けだ。恐らく、魔物が存在するなら魔王もいるのだろう。

「つまり……僕に魔王を倒して欲しい、ということですね?」

 少し踏み込んだことを聞いてみた。

「……いや、もう魔王は一度倒したのだ」


 ……え? 魔王は倒した? 目を見開いた僕を見て王様はやはりな、と言うと言葉を続ける。


「過去、魔王は一度退けられたのだ。しかしその後、魔王を名乗る者が数体、姿を現した……。恐らく、魔王を倒しただけではこの戦いは終わらないのだろう。そこで、私はお主に長きにわたる戦いの決着をつけて欲しいのだよ」


 数体の魔王、そして魔物に支配された世界の半分……。僕はこれから、戦いに向けて仲間を集めたり旅をしたりするわけか……。仲間は女の子だけにして、なんてことを考えていた僕はこの時、何も気付いていなかった。周囲のどこか冷たい視線と、僕という勇者が来たにもかかわらず、どこか浮かない顔をした王様に……。


「突然のことで理解が追いつかないだろう。今日のところはここまでにして、詳しい話はまた明日にする」


「宿を用意しております。どうぞこちらへ」


 僕は兵士に案内されるがまま宿へ向かう。すると、背後から何かボソボソと聞こえてくる。兵士達が何かを話しているようだ。


「……フトシ……名前的に日本人か」


「……?」


 何でこの世界の人たちが日本という国名を知っているのだろう。もしかして、この世界のどこかにも日本という国名があるのか?


「どうしたのですか? フトシ様」

「え、あ、いや、何でも……」

 まあ、そこまで気にすることでも無いか! 明日からは、この僕にも春が来るのだからね!


────────

────


「わ、わぁあああああ! す、すすす、すげぇ!!」

 思わず大声を上げる僕。まさにゲームの世界といえるような広大な世界が広がっていた。レンガで積み上げられた建物、見たこともない果実や肉のようなものを売っている店……僕が知っている現実世界の機械的なものなどは一切無く、ファンタジーの世界がそこにはあった。ウキウキの気分で宿に着いた僕は、早速酒場のようになっている一階でご飯を食べた。

「う、うぅう、うっめぇえええ!!」

 トカゲの丸焼きのような肉と何か赤い野菜のようなものと、普通の人なら避けるような食事が出されて来たが僕はそれを抵抗無く食べた。


「ああ、あれが召喚されたっていう……」

「まあ、今くらいはいいじゃないか」

「どうせ、また今までと同じだろう」


 僕から離れた場所で使い古した鎧や武器のようなものを持った冒険者? を思わせる男達が何か話していた。僕は完全に浮かれていた為、食事を凄まじい速度で口の中に運び、飲み込む。


「ふ、うぅう~、食った食ったぁ。僕、こんないい待遇してもらったの初めてだよ……」


 食事が終わって周囲を見渡して見ると、宿の客はもう既にほとんどいなかった。いるのは、奥まった席に座るフードを被った人だけ。他の人は皆部屋に行ったのかな?


 僕が首を傾げていると、フードを被った人が近づいてくる。近づいて来るのを見ると体格的に女性であることがわかる。もしかして、これは早速ハーレムの到来の第一歩かぁ~?


「……馬鹿みたいに浮かれてられるのも今のうちだけよ。お前は外れ。もう逃げられない」


「あえっ!? ちょ、ど、どう言う意味……ですか……?」


 ニマニマと気持ち悪い表情を浮かべている僕にフードの女はそう冷たく言った。透き通った綺麗な声、たぶんこの娘美人だろうな、なんて考えながらも彼女の発言に少し不安になる。


「フトシ様、今夜は、お早くお休みになられた方が……」


 宿屋の主人がやってきてそう言うので、僕は素直に部屋へ向かおうと席に立った。ふと隣を見るとフードの女はいなくなっていた。彼女の言葉に何か不安を感じながらも、僕は自分の部屋へ行く。


────────

────


「ふぃー、なんか、来たばっかりでわからないことばかりだけど……現実よりは楽しそうだなぁ。明日は伝説の武器なんか渡されて、そして、可愛いお姫様と……フヒ、ヒヒヒ……」

 この世界にも風呂があったようで安心した。僕は体を洗うと用意されていた服に着替え、ベッドの上に横になった。思った以上に疲れていたようで、意識が遠くなる。



ギシッ……。


 どれくらい寝た頃だろう、ふいに僕は何かが軋む音で目が覚める。ぼんやりと周囲を見渡すと部屋のドアが開いている。そして、僕の上で一瞬何かが光る。


「ひっ、うわっぎゃぁあああああ!!」

 光っているそれはナイフで、僕に覆いかぶさるように黒ずくめの男がいることに気付いた瞬間、僕は完全に目が覚め、大声で叫んでいた。


「騒いでも無駄だ」

 黒ずくめの男はドスの効いた低い声で僕にそう言うと僕の喉にナイフを押し当てる。


「お前に恨みはないが、死んでもらう」


 訳がわからなかった。何故だ? 明日から僕の異世界最強ハーレム冒険譚が始まるはずじゃなかったのか?


「ひっ、い、嫌だァ死にたくない……何で、何でこんなことするんだ……誰かァ! 誰か助けてくれえええ! あ、そうだ王様! 僕は王様に頼まれて世界を救うんだよ! 僕を殺したらどうなるか……!」

 僕がそう叫ぶと、黒ずくめの男はくっと声を漏らし、笑った。


「……ククッ、この程度で泣き叫ぶとは情けない男だ。やはり、国王陛下の判断は正しかったということか」


 ……え? 国王陛下の判断? な、何言ってんだこいつ……!


「理解が追いつかんようだな。どうせ死ぬお前に情けとして教えてやろう……。この国では、以前から何度もお前のような勇者様ってのを召喚してるんだ」


「な、何、それ……?」

 以前から? 僕はまだ理解が追いつかない。僕の様子を見ると男は更に言葉を続ける。


「最初の勇者は見事魔王を倒した。だが、その後現れた数体の魔王によって殺されたんだよ。その結果、また国王は勇者の召喚を試みた」


「だがその結果はどうだ! 皆力及ばず殺されるばかりだ! 今の勇者が死ぬまで次の勇者は召喚できん。そして、そうしている間にも、魔物達の侵略は続く……」

 まだ話が見えない。

「な、何が言いたいんだよ……! だから、何で僕を殺そうと……」

男は呆れたように僕を見下ろす。


「まだわからないのか? もし召喚された奴が見込みの無い奴なら、さっさと殺して次の勇者を召喚した方がいいだろうよ」


「そ、そんな……じゃあ僕は……」

 ここで全てが繋がった。王宮を出る前、兵士達が日本という国を知っていたのは過去にも沢山召喚された人がいたからだ。そして王様がどこか浮かない顔でいたのは、僕が見込違いだったから……。宿屋でフードの女の子が僕に言った外れという言葉……これはこうなることへの警告だったんだ。


「ふう、少し喋りすぎたが、そろそろ死んでくれ。なに、一瞬で死ねるようにしてやる」

 男は僕が絶望しきったのを見ると、再び僕の首にナイフを押し当てる。


「い、嫌だァアアア助けてくれエエエ!!! 死にたく無い! 死にたく無いんだよぉ!! 僕、まだ、この世界でやりたいことたくさんあって、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だァ誰か、誰か助けてェエエエエエエエ!!!」

 死を連想した瞬間、僕は叫んでいた。僕はまだ自分の人生で、何一つやりたいことができてない。このまま死ぬなんて嫌だ。現実でもここでも、散々踊らされて馬鹿にされて最後は捨てられる……。そんな人生なんて御免だ!!


「ッこいつ、まだ抵抗するか……!」

 黒ずくめの男がナイフを振り上げた瞬間だった。


「ぐぶぅッ!?」


 男は横に吹っ飛んでいき、部屋の壁に激突した。


「ったく、うるさくて寝られないったらありゃしないわ……」


 声がした方向に振り返ると、僕のベッドの横に先ほどのフードの女が立っていた。フードの中から覗く銀髪と、赤い瞳をした鋭い目……。

 命の危機に瀕している時、男は必死に子孫を残そうとするというが、それも間違いではないらしい。


 この娘、めっちゃ可愛いじゃん。

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