会いたい人には会えたかい?
ラジオ番組「夜語り銀列車」に送られた手紙の内容は、少年が恋する相手には「会いたい人」がいるという内容だった。
少年の恋の行方は?
※この作品は秋月忍さま主催の「夜語り」企画参加作品です。
さぁ、本日ラストのおハガキはこちら。
市内にお住まいのラジオネーム「恋する少年」17歳。
京介さん、こんばんは。
こんばんは!
僕は今、恋をしています。
同じクラスの女子です。
男女友だち6人でいつも行動しているのですが、もしも僕が彼女に告白してしまったらその関係が砕け散ってしまうのではないかと思い告白できずにいました。
いや、それは言い訳で本当は怖かったんだと思います。
自分自身の弱さでただ言えなかったんだと思います。
その日、僕は家のリビングで彼女を思いながらくつろいでいました。
すると母親が
「シンちゃん、ケチャップ買ってきてくれない?」
「ん? あ〜……いーよ」
そう言って近くのコンビニに出掛けたのです。
外の空気は寒く、僕の口からは機関車のように白い息が幻想的に吐き出されました。
透き通った空には輝く冬の星座たち。
こんな夜に彼女に会えたらなぁ。
そう思った時でした。
「あれ? シンゴ」
「うわっと! な、ななな、なんだ、マフユかぁ」
彼女でした。
突然声をかけられ、あまつさえ思っていた人に出会うことになるとは。
さらには冷たい空気も手伝って、思わず鼻がプッと出てしまいました。
その途端、彼女は笑い出しカバンからポケットティッシュを出してくれましたが、このロマンチックな出会いにスマートにいかないものだと顔が真っ赤になって、冬の寒さを忘れるほどでした。
「くそぉ。みっともないところを……」
「んふふ。別にいーじゃん」
「どこいくの」
「どこって……」
少し彼女の言葉が詰まりました。
「実は会いたい人がいるの」
突然、脳天にハンマーを受けたような衝撃。
会いたい人、会いたい人、会いたい人。
僕の頭の中にその言葉がグルグルと回り、そこに力無く膝をついてしまいそうでしたが、僕たちは友だち。
そんなさらにみっともないところを見せられるはずがありません。
「ふーん。恋人かよ」
「いや。違うんだけど」
精一杯の強がりの言葉を言うと、違うとの回答にまだ恋は成就してないんだなぁ。それならチャンスはまだあるのかもしれない。そう思いました。
「夜に一人であぶねーだろ。マフユは一応、女子なんだから」
「一応ってなによ! 失礼しちゃう」
そう言いながらプクっとふくれる彼女。
その幼い感じもどうしても好きなのです。
好きなのですが、彼女には会いたい人がいるのです。
「それに……、その人には夜しか会えないの」
夜しか会えない。
夜の仕事帰りか、バイト帰り、塾帰り?
どちらにせよ、彼女の夜の探索はこれからのようでした。
「危なっかしいなぁ」
「じゃぁ、付き合ってよ」
突然の申し出でした。
二人きりで夜の街を歩くという胸の高鳴りと、その反面、彼女の好きなヤツに会いたくないという気持ち。
僕たち二人は夜の街を歩き出しました。僕だけが複雑な気持ちを抱えたまま。
やがて街の灯りも切れ大きな公園の中に。
その日は氷点下まであって公園にある池の水は少しばかり薄く凍り付いていました。
彼女は手すりにつかまって水の中を覗き込みました。
こんな暗い夜の水の中なんて見えるはずもありません。
しかし彼女はしばらくそのまま、白い息を吐きながら水の中を覗き込んでいたのです。
冷たく強い風が吹く中その調子なので、僕は自分のマフラーを外して彼女の肩にかけて巻いてやりました。
「……あ……」
「風邪……。ひくだろ」
「ありがと……。でもシンゴは?」
「あ〜、オレは大丈夫。さっきまで家の中にいたし」
全然大丈夫じゃありませんでした。ホントは芯から冷えているのをこらえて格好つけたのです。
「そっか。ゴメンね。あったかいよ~」
「いーよ。でも、なんで水の中?」
「ううん。もしかしたら……。もしかしたらって思って……」
なんともミステリーな回答でした。
それから二人で公園のライトの下にあるベンチに腰を下ろしてしばらく馬鹿話をしていました。でも会いたい人……。それに会えなくてもいいのかなと思いました。
思いだすと止まらないもので、つい口に出して聞いてしまいました。
「なー。その会いたい人ってどんな人? 名前は? 同級生?」
友だちの顔、全然気にしてないよって顔をして白い息を吐きながら小刻みに震えて彼女に聞いたのです。
「いやぁ……。でも、シンゴに関係なくない?」
そう言われてムカつきました。せっかくこの時間まで一緒に付き合ったのにそっけない返事。
「関係ないってなんだよ」
「だって関係ないじゃん」
「関係あるじゃねーか。ここまで付き合ったのに」
「なにそれ〜。恩着せがましい。じゃぁ帰っていいよ」
「付き合ってっていったのそっちだろ」
「あ〜、じゃぁゴメン、ゴメン。これでいい?」
「なんだよそれ」
僕は腹立ち紛れに立ち上がって、彼女を一人残して公園の入り口に向かいました。
ですがやはりこの暗い公園に一人残しておくのは罪悪感もあり、彼女の元に駆け出しました。
彼女は泣いているようでしたが近づく僕の姿を見ると少しばかり嬉しそうな顔をして、思い出したようにプイとそっぽを向きました。そうされると僕も意固地になって彼女に近づいて自分のマフラーを掴みました。
「これ取りに来ただけだから」
変に巻いてしまったのか、なかなかとれずに戸惑ってしまうと彼女は仕方ないように立ち上がりました。
その途端、好きな人の顔が30cmの距離もない場所にあって、彼女の顔を見つめ照れながらマフラーを外していましたが、うつむいた彼女からフワリといつものいい香りがして、ケンカしたことを後悔して謝ろうと思ったんです。
「好きだ」
「え?」
間違えました。ゴメンと言おうと思ったのに、いつも彼女へ思っている気持ちを言ってしまったのです。
僕は真っ赤な顔をして完全に行動停止してしまいました。
すると、彼女の方から思いがけない言葉が。
「わ、私も……」
「え?」
なんということでしょう。彼女も僕のことが好きでした。
僕たちは両思いだったのです。
それから友人たちに冷やかされながらも付き合いを開始したのです。彼女と一緒にいるのはとても楽しい時間です。
でも最近思い出します。
彼女が会いたい人は誰だったのか?
ひょっとして遠回しに僕だったのかなぁと思っています。
というお便りでした。
これは、スタッフとも議論したんだけど、ひょっとして仕事帰りの親かなぁ。って意見も多かったんだけどね。
慶応卒ADのワイルドデーくんの話だと、「月下氷人」。
中国にあったお話で、「月下老人」と「氷人」ってのがいるらしいんだけど、どちらも縁結びの神様的な人らしいんだ。
つまり、夜の月の下で氷の下を覗いたってそういう意味じゃないのかな?
結果縁は結ばれたわけだから、彼女は会いたい人に「会えた」ってことになるよね。憶測だけど。
それから、「恋する少年」くん、ケチャップは大丈夫だったの?
チキンライスだったのかな……。後でその辺も教えてちょうだい。
じゃあ、「恋する少年」くんには番組特製銀ステッカーをプレゼントしておきまーす。
そう言うわけで、今日の『夜語り銀列車』いかがでしたか?
番組宛に勉強や恋の悩みどしどし送ってください。
また、番組ホームページも「夜語り銀列車ドットジェイピー」でチェック。
それじゃまた来週のこの時間に。
パーソナリティは夜形京介でした。
バイバイ。
【おしまい】