白い鳥
白い鳥は、籠の中でいつも一人ぼっちでした。
その籠の外には、黒い鳥や人間が沢山いました。
けれど、人間がたまに餌をくれるだけで、黒い鳥は白い鳥に見向きもしませんでした。
白い鳥は、愛を知りませんでした。
白い鳥は、愛されることすらも知りませんでした。
白い鳥は、黒い鳥が家族であることを知りませんでした。
白い鳥は、外の世界を知りませんでした。
白い鳥が知っていたのは、暗い籠と餌をくれる人間のことだけでした。
白い鳥が全てを知ったのは、籠が壊された時でした。
籠を壊したのは、餌をくれる人間でした。
しかし、その人間の手によって再び白い鳥は籠の中に閉じ込められました。
その籠の中は、酷く劣悪で苦痛に溢れた場所でした。
次第に、白い鳥の翼は薄汚れてボロボロになりました。
純粋だった心は、歪んでいきました。
ある日、白い鳥は籠から逃げ出しました。
薄汚れたボロボロの翼で空を飛び、戦禍に溢れる国を見下ろしました。
そして何を思ったのか、白い鳥は独り嗤いながら涙を流しました。
嗤いも涙も全て、その戦禍に溶けていきました。
白い鳥には、何一つ――残りませんでした。