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異世界系短編

従兄が異世界で魔王やってます

作者: 閑古鳥

「ただいまー……疲れたー……」


 そう言って玄関から入ってきたのは従兄のゆー君だ。薄汚れた漆黒のマントに頭に輝く金色の王冠。オプションで牙と禍々しい角も生えている。どー見てもなにかのアニメとかのコスプレにしか見えないんだけど、コスプレじゃなくて魔王としての正式な礼装らしい。薄汚れているのはきっとまた勇者と戦ってきたからだと思う。角と牙は帰ってきた瞬間に収納して今は普通の人間姿だ。


「おかえりー。お風呂沸いてるから入ってきたらー?」

「うん。そーする……」


 ゆっくりと肩を落として風呂場へとぼとぼ歩いていく姿が社畜のお父さんと重なって見える。今日もお父さん遅いんだろうなぁ……。ゆー君はまだ定時退社―残業なしは譲れないって直談判したらしい―だからお父さんより少しはマシだと思うけど。それでも勇者と戦うってのはかなりしんどい仕事だと思う。煤けた背中からは哀愁が漂っていてまだ23歳なのに可哀想だなぁと思う。週末と連休は家に帰ってくる出張魔王だけど、命の危険はあるし神経はごりごりすり減るしで決していい仕事ではないよねー。というか魔王がいい仕事な訳はないか。


 ちょっとここで魔王について説明しようと思う。魔王は魔族の王様で、どうやら向こうの世界の人間とは敵対しているらしい。別に魔族が悪いわけではなく人間側の宗教で魔族は滅ぼすべきもので勇者がそれを先導して魔王を倒すと言われている―魔族は完全にとばっちりだよね―んだとか。まあそれで、人間側の勇者とは常に戦争しているような状態で、先代魔王と勇者も日々戦いを繰り広げていたんだって。それに疲れてこっちの世界に逃げて来たのが先代魔王の妹だったゆー君()のミュリおばさん。おばさんはお母さんのお兄さんに当たるまさおじさんと結婚してゆー君を生んだから、ゆー君は先代魔王の甥っ子になる。先代魔王には子どもが居なくて兄弟もおばさんだけで、継げるのがゆー君の一家しか残っていなかったとかって聞いた。

 それで、先代魔王が亡くなったからって魔王の側近たちがこっちに襲撃かけてきて、ゆー君が魔王に就任させられたのが今からちょうど5年前のことだ。最初はミュリおばさんを探しに来たらしいんだけどおばさんとおじさんは国外旅行であちこちに行っていて全く捕まらなかった―どれだけアクティブなんだとか突っ込んではいけない。おばさん達は転移の術を駆使して捕まらない範囲の全力で飛び回ってるとか?―らしい。それで家に居候してたゆー君に白羽の矢がたったんだそうだ。大学受験のために必死で勉強してたのに首根っこ引っ掴まれて連れ去られる姿はとても悲しそうだった。というか実際半泣きだった。お母さんと私は誘拐かと慌てたんだけど残った側近の人たちに色々と説明を受けて警察に駆け込むのは止めた。異世界とか言われたから警察行っても意味なさそうだったし。魔王とか魔法とか言われてもさっぱりだし。まあなんとかゆー君は無事?に魔王として仕事してるからまあいっかって感じ。

 実際は向こうの世界とこっちの世界はこっそり交流があって、ゆーくんは株式会社ニレンテック―ニレンテックは向こうの魔族の国の名前なんだって―の社員をやってることになってるらしい。保険とか年金とかもちゃんと会社で管理されてるんだとか。ゆー君の給料もその会社から支払われてるとかなんとか。名目上は貿易系の会社で、向こうの世界特有のものとかをこっちに持って来たり、こっちの世界特有のものをあっちに持っていったりしているんだって。異世界転移とかの夢がぶち壊されたのはご愛嬌というところかな。


「ふーいいお湯だった……」


 ゆー君がお風呂から上がってきたみたい。おばさんとおじさんはまだ世界中を旅行してて―もうそろそろ帰ってきてもいいんじゃないかと思う―家に帰っても意味が無いからってゆー君は毎回うちに帰ってくる。家からゆー君家までは自転車で20分くらいだから何かあればすぐ帰れるしね。さって、お風呂が終わったら次はご飯だよねー。


「あ、上がったんだー。今日のご飯ハンバーグだよー」


 お母さんの作ったハンバーグおいしいんだよねー。野菜多めに混ぜられててヘルシーなのもいいよね。


「おー。やったー!おばさんのハンバーグ好きー。」


 ゆー君もハンバーグ好きなんだよね。さっすがお母さんのハンバーグだよ。お母さんはゆー君に甘くて……というかゆー君が疲れてるからってだいたいゆー君が帰ってくる時はゆー君の好物を作ってる。まあゆー君の好きなものはだいたい私も好きだからラッキーなんだけど。


「ゆー君。今週はどうだったの?」

「まーた、一緒。勇者と聖女と騎士と魔法使いの4人パーティ。パターンもだいたい同じ。こっちとしてはありがたいけどもーちょっとしっかり鍛えてから来た方がいいんじゃねーかな……?その間、俺は戦わなくて済むしなー……いや、でも、強くなられても厄介か……」

「追い返すのも大変だって前言ってたもんねー。」


 ゆー君曰く、勇者パーティは毎回同じメンバーでしかもほとんど成長もしないまま魔王城にやってくるそうな。なんでも勇者は自分が負けるのは何か魔王がズルをしているからだと思っているらしくレベル上げをする意識がないとか。聖女は「勇者様の言うことですもの!正しいに決まっていますわ!」という盲目系女子で、騎士は勇者に意見しようとして毎回意見を潰される不憫系―ゆー君はこいつとはきっと仲良くなれるって言ってた―で、魔法使いはやる気だけはあるドジっ子系だとさ。人間の国の方も毎回負けて帰ってくるのになぜか勇者の言うことを鵜呑みにして「次こそ勇者様のお力をお見せしてください」という感じらしくどうしようもないんだとか。


「そうなんだよー……。適度にボロボロな状態にしつつこっちには被害行かないようにして、最終的にうまく気絶させてから転移魔法で王都近くまで送還してってめっちゃ面倒。こっちは書類仕事とかもたくさんあるのにさ。ほんと邪魔。」

「まーまー、ぐちなら聞くからさー。落ち着いて落ち着いてー。」


 帰ってきたときは大体ぐち大会が開催される。魔王ってのも世知辛いらしい。ぐち大会ただ今缶チューハイをお供にして晩御飯まで開催中。


「今回は首都の道整備の案件が切羽詰っててさ……どうにか残業してあと一息で終わりって瞬間に勇者が突撃してきてさ……寝不足だわ疲労半端ないわイライラしてるわでそこに話聞かない勇者だろ?もうめっちゃむかつくよな。」

「あーわかるー。私も資格試験前で死にそうなときに「さっちゃんどーせ今暇でしょ?遊ぼー!!」って突撃されたときは殺してやろうかと思った。」

「うっわーないわー。それは絶縁してもいいレベル。」

「でしょ?連絡手段全ブロックかました!」

「俺もあいつらブロックしたい……つらい……」

「どんまい。」


 お互いぽつぽつと近況交じりにぐちを吐き出していく。キッチンのお母さんは仲が良くていいわーとのほほんと見守ってくれている。もうすぐハンバーグも完成かな?


「魔王様!誰かが急に魔王城に突撃をしてきました!」

「何!?すぐ行く」


 側近のベリルさんが首だけこっちに転移させて来たみたい。最初はびっくりしたけどもう慣れた。ゆー君も魔王スタイルになるために着替えを取りに二階へ上がって行った。と思ったら着替えて戻ってきた。


「おばさん!ハンバーグ俺の分置いといて!行ってきます!」

「いってらっしゃーい」

「いってらっしゃい」


 私とお母さんに見送られてゆー君とベリルさんは向こうの世界へ転移していく。今回は残業何時間で解決するのかなぁ……。今日もまたうちの従兄が異世界で魔王やってます。





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