サムとアミットの暇話(1万ドルの願い事)
場所はイギリスロンドンの郊外にあるパブで真っ昼間からウイスキーの入ったグラス片手にダラダラと飲んでいる二人の男の暇話。
そこで喋る二人は片方が瞳が青い爽やか笑顔でペラペラ喋るイギリス野郎のサム。
そして、そのサムの話ををあくび混じりに相手するのは、サムの親友であり良き聞き相手でもある浅黒くて彫りが深く今にも寝そうなバカ面で相づちを打つインド人のアミットである。
彼らはもうかれこれ三時間もパブのカウンターに座って(主にサムが)駄弁り続けいていた。
そんな状況に少々嫌気が差したアミットが眠気を醒ますようにグイッとグラスを傾けてウイスキーを胃に流し込んでサムに言った。
「なあサム、酒も話しもたらふく頂いた事だしここいらでお開きにしないか?そろそろ家に帰りたいんだが」
するとサムは飲みすぎでピンク色になった頬を上げて
「家に帰ったって何するんだよ?熱心に大学のレポート作りか?それとも何か?オナニーでもすんのかよ?」
サムは自分で言ったオナニーにツボった様で何度も小声で連呼して一人で笑い始めた。
そんなサムの様子にアミットは深い軽蔑と哀れみの視線を向けた。
最近のサムは彼女と喧嘩してからと言うものずっとこんな調子であった。
「お前が彼女と喧嘩別れして寂しいのはよく分かるんだが、その度に俺にそれを延々と愚痴った挙げ句、酒代を全部俺に持たせるのはそろそろ止めてくれないか?」
するとそれを聞いたサムみるみる内に目に涙を浮かべた。
「そんなこと言うなよ~!愚痴を聞いてくれるのも酒を奢ってくれるのも俺にはお前しか居ないんだからよ~頼むよ~!」
そう言って服の裾に取りすがって涙を拭くついでに鼻までかみだす親友の厚かましさに腹がたったアミットは、袖を振り払っていつもの様に酒代を二人分カウンターに叩きつけて強い口調でサムに言った。
「いい加減にしろ!お前のネガティブくそったれマシンガントークには色々な意味でうんざりなんだ!もういい帰る。帰ってオナニーして寝る」
そう言ってアミットがパブを立ち去ろうとするとサムがこう言った。
「ネガティブな話し以外にもポジティブな話もあるぞ?」
それを聞いたアミットは立ち止まり、左腕に巻いた腕時計を確認するとサムの所に戻って笑顔で二人分のウイスキーの追加注文をしてサムに言った。
「もっと早くそれを話せよサム」
アミットのその言葉に満面の笑みを浮かべたサムは咳払いをひとつして話を始めた。
「実はさ、ちょっと前に此処である男と賭けをしたんだよ。
その賭けってのがさ、なんと一週間でどっちが先に一万ドル稼げるかって賭けだったんだよ!
そんでもってその賭けに勝ったときが凄いんだよ!なんと、負けた奴が勝った奴の願いを何でも聞くってもんなんだよ凄いだろ!?」」
サムは鼻を膨らませて、自慢気に言った。
「それで、俺とその男とどっちが賭けにかったと思う?」
そう聞いてくるサムにアミットは相変わらずの笑顔で
「どっちも無理だったってオチだろう?」
ウイスキーをチビチビと飲みながらからかう様に言うと、どや顔で膨らませた鼻をさらに膨らませて
「違うんだなあこれが!て言うかどっちも無理だったら、ポジティブな話しにならないだろう?でもまあ、なんと俺が勝ったんだよ!」
それを聞いたアミットは目を大きく見開いて、思わず口に含んだウイスキーを吹いてサムの顔にかけてしまった。
「な、何だって!?じゃあその金でお前に貸した500£返済しろよ!」
顔にかかったウイスキーを手で拭いアミットの服で手をふきながら言ったが親友にハンカチ代わりにされているアミットは借金を返してほしいからかそれともゲイだからなのかは分からないが最早自分の服で手を拭かれることについて気にもしていない様だった。
「まあ、それは後だ!兎に角、俺はその男との賭けに勝ったんだよ!」
必死の形相で強引に借金から話を反らすサムを哀れんだアミットは渋々ながらどうやって一万ドル稼いだか聞き出して、溜めに溜まっている借金を取り立てるのは今日のところは止めておいて友人の話を聞くことにした。
「それで何を願おしたんだよ?」
アミットが優しくサムに問いかけるとサムはサラッと
「それがさいきなり裏路地に連れていかれて全部丸々持ってかれちゃって今一万ドルの借金だけ残っちゃたんだよな!だからさ、もう500£貸してくれないか?」
と言ったの聞いたアミットは溜息を一つして無言でサムに拳骨を食らわせてパブを立ち去った。