蛇捕りガンゾウ(創作民話 6)
その昔。
蛇を捕まえ、そのキモを売る、ガンゾウという名の男がおりました。
ガンゾウには身重の嫁がいます。
もうじき生まれる赤子のために、ガンゾウは毎日のように野山をかけめぐりました。蛇のキモは滋養の薬として、薬問屋が高値でに買い取ってくれたのです。
赤子の生まれる日。
ガンゾウは捕まえた蛇の皮をはぎ、取り出したキモを井戸端で洗っていました。
家の中では嫁がウンウンとうなっています。すぐにでも赤子が生まれようとしていたのです。
「おおごとじゃー」
産婆が血相を変え、ガンゾウのもとに駆け寄ってきました。
「生まれたのか!」
ガンゾウの問いかけに、
「まあ、おのれの目で見るがいい」
産婆はガンゾウの腕を引き、嫁のいる奥の部屋へと連れていきました。
お産がひどかったのか、嫁は床に伏したまま気を失っていました。
「ほれ、よう見るんじゃ」
産婆が嫁の足元にある木桶を指さします。
「なに、これが赤子か!」
ガンゾウは腰を抜かさんばかりにおどろきました。
赤子は首から上は人だが、体には手も足もなく蛇の姿をしていたのです。
「なんとおそろしや」
産婆が目をそむけてわななきます。
――わしが蛇を殺してきたからだ。
ガンゾウは赤子の因果を、これまで自分が殺した蛇のタタリだと思いました。
それからのガンゾウ。
自分の行いを悔いあらため、なりわいとしていた蛇捕りをやめました。さらには自分の手で、殺した蛇を弔う塚を建てました。
くる日もくる日も……。
――赤子を人の姿にもどしてくださいませ。
蛇塚の前にひざまずき、ガンゾウは必死に手を合わせました。
ひと月が過ぎました。
赤子はスクスクと育っていました。
体が蛇であってもおのれが産んだ子です。嫁はかいがいしく乳を与えていました。
そんなある日。
ガンゾウが蛇塚に行きますと、長さが三間もあろうかと思われる白い大蛇がおりました。
――この塚から出てきたのだ。
すぐさまガンゾウは思いました。
弔っている蛇たちの魂が化身して、このような大蛇になって現れたのだと……。
大蛇がかま首をもたげてしゃべります。
「オマエを食わせるなら、赤子を人の姿にもどしてやろう」
「ああ、ぜひそうしてくだされ。ワシはどうなってもかまわねえんで」
ガンゾウは大蛇の前にひれ伏しました。
大蛇の大きく開いた口が近づいてきます。
恐ろしさで気が薄れゆくなか、ガンゾウは大蛇にのみこまれるのだと思いました。
数刻後。
ガンゾウは正気にもどりました。
塚の前にいることに気づくと、すぐにまわりを見まわしました。
大蛇は消えていました。
――夢だったのか。あれが夢でなければ、赤子は人にもどれたのに。
ガンゾウはため息をついて立ち上がりました。
家に帰るやいなや、
「あんた、見て!」
走り寄ってきた嫁から赤子を見せられました。
「おう!」
なんと、赤子の体が蛇の姿から人の姿にもどっています。
「夢じゃなかったんだ」
ガンゾウは嫁に、蛇塚で見た白い大蛇のことを話して聞かせました。
翌日。
ガンゾウは朝早くに蛇塚に出向くと持ってきた酒を供え、それから我が子を人の姿にもどしてくれたことにお礼を言いました。
するとどこからともなく、
「あのときオマエが逃げ出したなら、赤子の体は蛇のままであっただろう」
あの大蛇の声がしたのでした。