6.リスとお食事
叫び過ぎたのか、立夏は上下に肩で息をする。
「えええ!立夏さん僕より年上なんですか?可愛らしいから見えませんね〜。」
立花はまたもや立夏の悩みのうちの一つ「可愛らしい」というキーワードをもってきた。
相手はほめたつもりだろうが、立夏の中ではほめたにも入らない。むしろ逆である。
立夏はその言葉を聞いた瞬間またもや叫びそうになったが、三十路も1年加算されようとする年になろうとするのにこんな事で荒立てたら大人の女じゃないととどまった。
確かにそうだが、こんなことを思う時点で大人の女ではないのはたしかだ。見た目が引きずられるともいう。
立夏の中で立花はどんどんと好感度が落ちていくのがわかった。
「─え?ちょっとまってください。いまなんて言ったんですか?」
立夏はなにかさきほどから聞き落として部分がある。禁句ワードをもってきた立花によって動揺してしまった立夏だが、抜け落ちてしまってる部分を立花にもう一度言うように促した。
「はえ?えっと、『ぼくより年上なんですか?』っていいまし─────」
「ええええええええ────────────────────────────年下なの!」
立花の言葉をまた遮るように先ほどよりかは少し小さめに叫んだ。そして下から上を目線を動かし、立夏は目を丸くして立花をみやった。
立夏の目線が立花の顔に行き着いたときに、可愛らしく微笑んだ。
「はい、僕今年で30になります。」
「あぁ、なんだたった一つ下なんですね。」
「年上だと思いました?ふふっ。」
「えっ、うっ、はい…。すいません。とても貫禄があったので。」
立夏はとたんに恥ずかしくなり、さきほどは打って変わって発する言葉がしりすぼみになっていく。
そんな立夏を見下げながらさらににこにこする立花がいた。
そして、この状況のままでも立花的には良いのだが、立夏のお腹から虫が再び催促をうながす。
ぐ───きゅるきゅるきゅる、、、。
「っふふ、可愛らしいですね。まぁこのままではお腹の虫が治まらなさそうなので行きましょうか。」
「はい…。お願いします。どこにいかれるんですか?」
立夏は虫を押さえながら、立花にお店の場所をきいた。立夏自体はお昼はよくくるが夜ははじめてなので、夜にやっているお店があるのだろうかとふと思った。
みたからに住宅街なので、すこし歩かなければならないだろうと立夏はまわりの情報をかき集めた。
「そうですね。僕の知り合いがやっているイタリアンのお店があるのでそこでもいいですか?」
「はい、わかりました。ここから近いんですか?」
立夏の腹の虫ぐあいからいったら近くのほうがありがたいのだが、立花は立夏の顔を覗き込むとにっこりと黒い笑顔をみせた。
「近いですよ、10分ぐらい我慢出来ますか?」
「出来ます!」
またもや立夏をいじる立花という構図が出来上がっていった。
しかも立花は立夏をいじる行為が楽しいのかいじる対象が毛を逆立てるとさらに立花はその毛を逆立てたくなる衝動にかられるという気持ちになる。
立夏も立夏でその行為に対してよい反応を出してくれるので、助長させている節もある。
10分程度歩いてるうちに、目的地についたのか立花が立ち止まり、さらに小道を進んでいくとそこには塀が現れた。
一部の塀がこわれておりそこからみると下は道路になっていた。壊れた塀にはとってつけたような4段分の鉄骨の階段が備え付けられており、ここからおりるみたいだ。
「この階段の先にあるんです。」
さきに立花が鉄骨の階段をかるくとんとんとおりていき立夏に手を差し出した。
しかし、立夏はその手をみて躊躇し、立花に断りをいれた。
「あの、おりれますので、大丈夫です。」
「でも暗いし、危ないのでお手をどうぞ。」
紳士だと立夏は感じた。でもその手を押しのけて立夏は暗がりの中鉄骨の階段をゆっくりとおりていったが、足がうまく運べずヒールが鉄骨の部分に引っかかってしまった。
「っあ!」
立夏が前のめりになり、こけるっという思いになる前に立花が立夏の手を取り前のめりな身体を受け止めた。
「ほら、いわんこっちゃない。大丈夫ですか??」
「す、すいません。」
立夏はおずおずと立花の手をかり、階段を無事に最後までこけずにおりる事ができた。
が、そこまでは立夏もまだ手をにぎるという行為自体に意識をせずもつことができたが、その後だ。
そのまま立花は立夏の手をずっと握ってるのだ。
「あの、階段おりられましたので、離してもらえませんか?」
「いやです。」
「っは?」
立夏は手に汗が徐々に出ているのを肌で感じた。
なんとか、手を離そうと立夏はぐっと触らないよう引っ張ってみるがやはりとれない。立花はそれをみてにこにこしている。
「離して下さい!なんなんですか!」
恐怖がふつふつと立夏のなかでうごめきだしている。赤色の危険信号が点滅をし始めた。
恐れ、恐怖、焦り、不安、、、、。
その文字が立夏の中にだんだんと大きくなる恐怖感はましていく。触れている肌からはじっとりと立夏自身がわかるぐらいぬれているのが分かった。
「あの、ほんとやめてください。手汗かいてるし…!」
立夏の異常さに立花も感じたのか、すんなり今度は手を離しくれたことに立夏は安堵した。
「わかりました。ごめんなさいちょっとひつこかったですね。」
ちょっと残念そうに立花は頭をかきながら立夏にあやまり、そのまま踵を返し立夏が体勢を整えるまで待っていた。
立夏はふっと安堵の息をつくと、少し気まずくなりその場をもたせようと立花にお店の場所を聞いた。
「すいません。とりみだしてしまって。あのお店はここら辺なんですか?」
「あっ、はい。この階段をおりてすぐそこに蔦が張ってる鉄の門がみえるでしょう?あそこです。」
立花が指し示したところはレトロな洋館で赴きがあり一言でいうと隠れ家的なおしゃれなお店だった。
せまい戸口をみやるとそこには白熱電球があたたかくひっそりと照らしていおり、いまかいまかと客人を迎えているようだ。
「ここのお昼のランチも美味しいんですよ。」
玄関口まである砂利が敷き詰められた通路をあるきながら立夏は立花のお昼情報に聞き入っていた。
「ランチもやってるんですか!わーでもお高そうですね。」
「そうですね、1,000円と値ははるんですが、出しても満足してもらえるぐらい美味しいんですよ。」
立夏のだいたいのランチをだしてもよい金額の上限がぎり1000円ぐらいだったので、なかなかのランチのお値段だと立夏のなかでランクずけられた。
(1,000円…。確かになかなかのお値段ね…。)
ひとりごちている立夏をしりめににこにこと立花はそんな立夏をみて微笑んでいた。
「あ!でもそうなると夜はお高いんでは?私そんなに持ち合わせがありませんので。」
立夏は立花に持ち合わせがないことを伝えるとさらににっこりと微笑まれた。
「大丈夫ですよ。立夏さんにはお食事付き合ってもらうんですから、気にしないでください。」
「え!そんな!拾ってもらってるしちょっとまって!この近くにコンビニは…!」
立夏は確かに持ち合わせてない。財布にお昼途中のコンビニによっていたのでまだ五千円をいれているのは確かだ。それ以上となるとクレジットももってないので持ち合わせがない。またしても迷惑をかけると言わんばかりに周囲を見渡したが、ひっそりとたたずむところは住宅以外みあたらない。
立夏の顔色はさっと顔が青くなるばかりだ。おろおろと立夏はたっているいちからせわしなく顔を動かしたが突然、顔に何かがあたった。
「わぷっ!」
清潔な、すこし花の香りがひっそりと立夏の鼻腔をくすぐった。
頭の上からは立花の声がきこえてくる。そっと立夏はとっさにつむった目をあけると目の前には立花の服が広がっており、立夏の肩をつかんだ。
「大丈夫ですよ。ささっ!きてください。」
そういうとにっこりと、立夏の肩をもちながら玄関口にむきなおさせた。そしてぐいっと進むように促す。そこにはさきほどの意地悪さはなく立夏を落ち着かせようという立花の意識がながれこんできた感覚にとらわれる。
そんな時だった。がらっと玄関口の扉がひらきそこからはおとぎ話にでてきそうなほどキレイな白髪と整った美人なご婦人がでてきた。
そのまま笑顔を綻ばせながら立夏たちのところまできて、突然立夏を抱きしめたのだ。
「まぁまぁ、こんばんは!待ってたのよ。あら可愛らしい方ね。」
突然抱きしめられた立夏はついていけずそのご婦人をみやった。
「あ!ごめんないさいね。驚いたわよね。ほほほっ!りっちゃんもおかえりなさい。」
「ただいま。まだお店まだ大丈夫ですよね?」
「大丈夫よ。主人もまってるわ」
立花とご婦人は親しげに話をすすめていたが立夏は話についていけず目を白黒させていた。
おいてけぼりになってる立夏はどうすればいいのか途方に暮れていた。
「えっと…。」
立花が途方に暮れていた立夏に声をかけた。
「ほら、立夏さんが驚いてるから。」
ご婦人は手をくちに当て、またほほほっとかわいらしく微笑んだ。
「あら!わたしったらついつい。ごめんないさいね。」
「いえ、大丈夫ですので。」
ほほほっと笑い合う立夏とご婦人。この空気をなんとかしてくれる立花にちらりと目をやるとまたしても頬をそめてよろこんでる立花が目に入った。
なにかにすごく満足している様子だ。恍惚といってもいいかもしれない。そんな光景をなかった事にしようと立夏はもういちどご婦人と目を合わせた。
数秒飛んでいた立花は意識がもどったのか、やっと紹介してくれるみたいで、手をご婦人のまえにだした
「あ…、はっ!すいません。こちらの女性は立花綾乃さんです。この店のオーナーの奥さんです。」
「こんばんわ、綾乃ちゃんって呼んでね。今日は楽しんでいって。」
「橘立夏と申します。よろしくお願い致します。」
立夏はキレイにお辞儀をし、立花と綾乃をみやるとどことなく雰囲気がにていることに気がついた。
そして名字が同じ。これはもしかするとと立夏が思うと立花が口を開いた。
「こちら僕の伯母です!」
「伯母です!立夏ちゃんっていうの!まぁ可愛らしい!」
やはり想像していた通りだった。やはり親族。雰囲気も似てるはずだ。
圧倒される雰囲気をもつ二人を目の前に立夏はげっそりとした。
立夏の腹の虫もそのならず鳴りを潜めてしまったいることだけがすこし救いだと立夏はふとどこかで呟いた。