3.リスの失態
立夏がしばらく眺めていると立花が花を包み終わったのか、座っているベンチまで届けにきてくれた。
「お待たせいたしました。合計で3240円となります。」
「あ…、ありがとういございます。はい3000、240円ですね。ちょっとまってくださいね。」
立夏はお財布を取り出すと、言われた金額を出そうとお札が入ってる部分に手を出した。
そして、立夏の顔はどんどんと青ざめていった。
(ど、どうしよう。あと1000円足りない、、。)
へんな汗がでてくる立夏、そんな立夏をジッとみつめる立花。
立花は立夏の様子がすこしおかしいことに気づき、声をかけた。
「大丈夫ですか?」
「あ、はい。大丈夫です。」
全然大丈夫ではない。立夏のお財布にはキャッシュカード、ポイントカードがあったが、クレジットカードがない。
昨今におけるクレジットカードの普及率は目覚ましのだが立夏はなぜかクレジットカードを持っていなかった。
自分でしでかした失態に溺れるということになるのだ。
そして、せっかく包んでもらったものを戻すという無下の行為。最低である。
立夏は立花に怒られる覚悟をし意を決し口に出した。
「あ、のお金が足りません。すいませんがその花戻してもらってもいいですか?」
「あぁ、なんだそんなことだったんですね。」
「ほんとにすいません!せっかく包んでもらったのに!!」
立夏は恥ずかしさからはやくその場を立ち去りたい気持ちに一杯になった。
立花にむかって、何度も何度もからだをおって謝りだおした。
「本当に大丈夫ですよ。気にしないでください。」
「ほんとすいません。なんかこんどきちんと買わせていただきますので。」
「気にしないでください。また今度きてくれるのお待ちしておりますので。」
立夏は羞恥心で顔が真っ赤になってるのが自分でもわかった。
そんな顔を立花にみせたくなかったのかうつむいたまま立夏は目をぎゅっとつむった。
そしてふっと立夏は腕につけている時計に目をやるとそろそろ会社からでてちょうど1時間ぐらい経過しているのに気がついた。
「今日はほんとにすみませんでした。また今度お詫びによりますので。」
「いえ、大丈夫ですよ。またのご来店お待ちしております。」
立夏は立花にむかって今度はきちんと顔をみてもう一度丁寧に謝り、その場を後にした。
そんな立夏を見送り立花も仕事に戻ろうとしたときだった。
先ほど立夏が座っていたベンチをちらりとみるとその上には可愛らしいキーホルダーが落ちていた。
キーホルダーにはいくつかの鍵がつけられており、マスコットは近頃人気が出て来ているリスのキャラクターが可愛くゆれた。
可愛い可愛いマスコットはどことなくさっきの女性とよく似ている感じがしたことを立花はめずらしくその女性の記憶を辿っていた。
そのことに気づくとすこしくすぐったい気持ちなり立花はそのまま可愛いキーホルダーをポケットにしまった。
立花が歩くたびポケットからはちゃりちゃりと可愛らしい音が鳴り響き、立夏の顔がちらちらと立花の脳裏に蘇る。
そしてころころとかわる立夏の表情がどうしても立花の頭から離れなかった。
(小さかったな…。俺とどれくらいちがうんだろう。)
立花の人生が色づいた瞬間だった。