天空の扉(私が見た夢11)
こんな夢を見た。
私は一人の男だった。
そうして扉の前に立っていた。
私は静かに、何の躊躇いもなくその扉を開けた。
扉の向こうには、家具一つない部屋が広がっていた。
そしてその中央に目隠しをし、手足を縛られた女が椅子に座っていた。
私はその女を見た瞬間、懐かしさが込み上げてきた。
静かにその女に近づく。
部屋に私の靴音が響く。
女はその音に気付き、首をめぐらす。
「誰?どうやってこの部屋に来たの?」
私は女の声を聞いて身震いした。
この声を知っている。
私は自分の声が震えるのが分かった。
「目の前に、扉があった。
それを開けただけなのだ」
女も私の声を聞いて驚いたようだった。
私はそっと女の目隠しをはずした。
女の美しい瞳が私を見て、うるんだ。
「また、あなたに会えるなんて。信じられないわ」
「ああ、私もだ」
私は女の涙を優しく拭った。
私たちが出会ったのは、海辺だった。
日傘を飛ばされ、追いかけている彼女と出逢った。
私は一緒に日傘を探したが、日傘は遠くに飛ばされたのだろう。
見つからなかった。
「どうしよう。帰れないわ」
女は困っていた。
私は女を落ち着かせようと思い、家へ連れて来た。
「あの日傘がないと、私は天へ帰れない。
どうしよう。
黙って抜け出してしまったから、きっと誰も私がここにいることを知らないわ。
どうしたらいいの?」
泣き出す女を慰め、私は一つ提案をした。
「ここに住みながらあの日傘を探すのはどうだろう?」
私の提案に女は喜んで頷いた。
そうして私たちの生活が始まった。
女は毎日、日傘を探し続けた。
しかし、日傘は見つかることはなかった。
「このまま帰れなくても構わないわ。
ずっとここに、あなたと一緒に」
女は私に恋をした。
私も女に恋をした。
私たちはずっと一緒にいるつもりだった。
しかし、天からの使いがやって来て、女は連れて行かれた。
泣き叫び、離れることを嫌がった女を引き止めることも出来ず、ただ見ていた。
無力な自分。
それがとても悲しかった。
女が帰ったあと、私は地下倉庫へ向かった。
そこには女の日傘が隠してあった。
一緒に暮らして少し経った頃、私は日傘を見つけたのだった。
でもそれを教えてしまえば、女は帰ってしまう。
だから私は地下へ隠した。
二度と見つからないように。
「あなたと離れ離れになった私は、耐えることが出来ず、入口も出口もないこの部屋を作った。
そうして何も見ないよう、感じないように目を隠し、手足を縛った。
まさか、あなたとこうしてまた会えるなんて」
私は女の手足を自由にし、抱き寄せた。
女の吐息を心音を、肌に感じた。
「すまない。
日傘を隠したのは私なのだ」
私は女の耳元に囁いた。
「…知っていたわ。
それでも私は傍にいたかったのよ」
その言葉に私は涙した。
もう、離れたくなかった。
私は女を強く抱きしめた。
「今度は一緒に生きましょう。
私は地上に生まれてくる。
そうして出逢って、また一緒に生活をして、一緒に死にましょう」
「ああ」
だんだんと女の姿がかすれてきた。
私は焦った。
また、離れてしまう。
「信じていて。
また出逢えると」
女は私に向かってそう言うと消えた。
部屋も、扉も、全て消えた。
そうして私も消えたのだった。