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あからさま症候群

作者: 染井

IF話ですよ

「久しぶり! 俺、並木だよ。俺のこと覚えてる?」


 夏真っ盛りの昼過ぎだった。別に何もない平凡な大学生活を送る中、ひとり暮らしが似合う小柄なアパートに珍しく客人がきたのだ。インターホンをしつこく押すものだから覗き窓を見たが、別段怪しそうな類ではなかったのでそっとドアを開けると、金髪でピアスをつけた少年が顔を出す。身長は俺と変わらない程度の低身長、童顔で中学生くらいに見えた。しかし母校の高校の制服を着ているのだから高校生だ。

 柔和な笑みを浮かべる少年に見覚えはなかった。「覚えてる?」と言われても「いや、覚えてない」と返すのが当然だろう。人懐っこいが気弱にも見えた。少なくとも見知らぬ人のインターホンをしつこく鳴らし、大学生に軽々しくため口で話すほど、気概があるようには見えない。


「知らないな。人違いじゃないのか?」

「そうかなぁ。俺は今、柊菊也って人を探してる。貴方は菊也じゃないの?」


 …違う。俺は菊也という名前ではないし、柊という姓ではない。ということは奇跡的に、俺はこの菊也さんと顔が似ているだけか。しかし、「菊也」と呼ぶとは、菊也さんとこの少年は余程仲が良かったような口ぶりだ。

 否定はしたのだが、この少年、意外と図々しいようで、革靴を脱いで勝手に部屋に上がり込んできた。俺の知り合いらしき人にあまり散らかった部屋を見せたくはなかったが、立ち話をするには蝉の声がうるさすぎるので、しぶしぶ迎え入れる。

 どうやら、長話にするつもりらしい。


「しかし汚いなぁ。ちゃんと整理してる?不潔ってほどではないけど、ごちゃごちゃだよ」


 ほうっておいて欲しいし初めて会った人に言われる義理はないのだが、大学生活に憧れているような高校生が現実を見たような顔をしていたので居た堪れない気持ちになった。確かに、この部屋は汚い。彼の言った通り掃除だけはしているので不潔ではないのだが、物がたくさんあるのだ。読むつもりのない本や漫画だらけ…。それも、アニメ化したある程度有名なものばかり。それと、ホッチキスでとめてある薄い冊子。大きさはA4かB5で、全て縦書きで台詞のようなものが書かれているが、やはりそれも読む気になったことはなかった。

 とにかく、そういう紙の束が部屋を圧迫しているので、部屋が綺麗になることなどなかった。前ここに住んでいた人の所有物だったのだろう。所謂オタクという奴か。俺はそういう類の人を蔑むつもりはないし、純粋に経済力があったのだろう(このアパートに住むくらいだから、お金を全てそちらに費やしていただけかもしれないが)と尊敬すらする。何より、無趣味の俺よりかはいくらもましだろう。そのせいで俺の趣味といえるものは部屋に置いていないのも、この紙束を捨てる気になれない理由の一つかも知れない。


「ごめんね、勝手に入っちゃって。で、お名前は?」

「久保田祐介。まったくだ。何か理由があって来たんだろ?」


 話を早く進めて帰れというふうに、彼を促した。何となく、目の前の少年…並木は俺の嫌いなタイプだった。一緒にいるだけで居心地が悪い。勿論彼に何の罪もないので、おくびには出さないつもりだが。

 並木は少しだけ考えて、やがて何を思ったのか、


「単刀直入に言うと、ここに住ませて欲しいんだ」


 と手を合わせた。男子にしては大きめの丸い瞳が心なしか上目遣いだ。普段から頼みごとをよくするタイプなのだろう、手馴れた様子だった。

 結論から言おう。


「ノー、だ」

「ええっ」


 断られるとは思っていなかったのだろう、見開かれた目が驚きの色をしていた。何でまた思い切ったことをするものだとは思っていたが、そこまで許した覚えはない。

大体この部屋は4畳半。そこにベッドと紙束の山があるのだから何かするスペースなんてない。ほかに狭い台所があるとはいえ布団の一つも敷けないし、敷く布団もない。


「じゃあ、俺が今から布団を家から持ってくるから。そこのラノベとかは寝ている間だけキッチンに置けばいいじゃん、ねっ」


 家があるのなら、どうしてここに泊まる必要があるのか。彼なりに理由があるのだろうが、さっきそれを聞いても一言しか返してくれなかったのだ、きっと俺には言えないのだろう。しかし男二人で狭いアパートに寝るなんて、何とも嬉しくない状況だ。大学の仲間には絶対言いたくない。

 了承した覚えはないのだが俺が何も言わないので沈黙を返事と捉えたのか、持ってきた学生鞄を置くと履きつぶした革靴を履いて出て行ってしまった。真新しくはなかったのだから1年生ではなさそうだ。自分も以前は随分子供扱いされたものだが、大学生にもなると顔はまあ男のそれになった気はする。似合わない金髪にピアス、彼もその類で、背伸びをしているのだろう。そう考えるとなかなか可愛いのだが、図々しさが先でて印象づけてしまっていた。

 鞄の中身を見るほど悪趣味ではないが、男にしては可愛らしいストラップが気になった。これが彼の趣味でないなら、彼女がいる可能性が高い。金髪にピアス…大人しい外見だが、クラスの中心グループ、といったところか。可愛らしい外見は意外と人気が高いものだ。まあ、俺には縁がない。

 柊菊也、か。また随分と懐かしい名前を聞いたものだ。目を閉じてベッドに横になった。一応、並木が出て行った時に鍵は閉めておいてある。クーラーは何となくつける気にはなれなかった。カーテンを閉め、蝉の声を特に意味もなく聞いていた。


「祐介さん、戻りましたよーっと」

 三十分ほど寝ていたのだろう。ハッと起きてドアを開けると、出来るだけ小さく済ませたのであろう、敷布団を紐で丸め、それを背中に担いだ並木が姿を現した。それを部屋まで持ってくると、おばさんのようにどっこいしょと言いながら布団を下ろした。

 鞄を置いていたとは言え、本当に泊まるつもりなのか。…いや、この調子だと泊まるというよりも、住むつもりかも知れない。確かに一人が寂しいと感じたことはあったが、流石にそれは迷惑だ。


「何だか、修学旅行みたいだね」

「こんな狭いところで修学旅行なんて、絶対したくないがな」

「そこは同感」


 紙束を運びながら、並木はへらっと笑った。愛想笑いなのかは知らないが、よく笑う奴だ。あまりこういう奴は得意ではない。裏で何を考えているか解らないのだから。が、人間関係を良好にするための手段と考えれば、人間らしい性格だ。派手めのグループにいそうだし、上手くやっているのだろう。

 …と、何故俺は目の前の奴を分析しているのか。大抵のことに興味がなかったはずなのに…ああ、同性愛の趣味はないし。無趣味といえど無感情でも無表情でもない、ただ昔よりは少し落ち着いたただの一介の大学生なのだ。

 並木がスマートフォンやら台所にある紙束やらに気が向いている間、暇つぶしにパソコンを開いてSNSの返信をして時間を過ごした。夜になって電気を消しても、彼は未だにスマートフォンで何やらやっていた。明かりが気になるが眠れないほどではない。が、隣で誰かが寝ている状況は久しぶりだった。

 何も好きで一人暮らしをしている訳ではない。強要された覚えもない。ただ、そうするしかなかっただけだ。そして並木も、きっと今その状況なのだろう。結局、何故ここに泊まる気だったのか聞くことが出来なかったし、あちらも言ってはくれなかった。気にならないといえば嘘になるが、終わった話をぶり返すと気まずい空気が流れることは解っているのだから、もう何も言うまい。明日は彼も自宅に帰って、そして自宅で過ごしてくれるのを願っている。今日のことはいつか、忘れてしまうだろう。そうあって欲しい。

 その日はそのまま、眠りについた。



 カーテンは朝日が差し込むように開けていたが、ベランダの窓の鍵はちゃんと閉めていた。どうせ特に金目の物もなさそうな古びたアパート、盗むものすら殆どないはずだ。だから泥棒なんて入らないと思っていた。

 なら今馬乗りになって包丁を掲げているのは一体…

 月の光が後光のように男から発せられている。包丁がその光を受けて僅かに光り、俺の首に向けられていた。冷や汗が伝うのが解る。一瞬で目が冴えた、彼はまごうことない、並木だ。


「…ちっ」


 振り下ろされた凶器は布団に突き刺さった。間一髪。何とか顔を逸らして避けると、刃物を持った方の並木の腕を両手で強く掴んだ。

 体が震える。正直逃げたいけれど、それじゃあ駄目だ。また同じことを繰り返すのは駄目だ。


「俺を殺して、それでどうする気だ」

「お前は菊也じゃない、でも菊也なんだ。ずっと探してた…俺の兄さん!」


 答えてくれなかった。無視しているようだが、それでも俺が話しかけないと何も言わなかったのだろう。並木の声は必死だった。俺が何かを言ったことで、何かが切れたように叫んでいた。

 包丁は敷布団を裂き、ベッドまで到達した。それでも並木は手を離さない。俺とて、まだ死にたくない。無趣味で毎日を平凡に生きるだけだったが、死んだように生きていたが、それでもだ。なかなか図々しいのは並木だけではなかったようだ。


「離せっ! 殺すんだ! 俺が今、菊也を」

「いい加減落ち着け!」


 何が何だか解っていない俺だったが、声を張り上げることで彼が黙ってくれると思い夜中に出すには大きすぎる声をあげた。並木から力が抜ける。俺は包丁を奪い取ると、敷布団の下に隠した。だが彼が馬乗りなのは変わらないまま。つまり形勢不利である。


「落ち着いてないのは兄さんだろう…?」


 虚ろな目で俺を見る。電気…蛍光灯に手が届かないが、月の光のおかげもあって暗闇に目が慣れていた。

 命の危険がなくなったので、時計を見てみると夜中の2時だった。


「俺はその、兄さんのそっくりさんなんだろう?兄さんじゃない」

「違う、兄さんだ」


 依然として話を聞こうとしない並木。


「柊菊也は死んだ…そう聞いていた。でも違う…違ったんだよ。目撃情報があったんだ。大学で、普通に幸せに暮らしていると…。俺は許せなかった。俺から母さんを奪った奴が、のうのうと生きているだと?」

 

 何のことを言っているのか解らない。

 不意に台所を見ると、紙束が刃物で切り裂かれたように、バラバラにされていた。本や漫画もところどころ破かれていて、すぐに並木の仕業だと解った。しかし俺は、今ゴミと化したそれらに情はない。彼にとって忌々しいものだったのなら、気が済むまで破けばいいだろう。しかし、流石に俺の命までは捨てられない。


「母さんは刃物で何回も刺されたらしい。それはそれは痛かったろう。犯人は俺の実の兄だ。俺がその場で、この目で、見ていたんだ。血が幾度となく出ていた。…俺は母さんが大好きだったんだ!」

「それは、辛かっただろう」


 気持ちは解らなくもないが、私事を持ちこまないで欲しい。同情はするが、どうせ他人事。確かに無感情ではないが、俺の出る幕ではない。


「何だよそれ…」


 並木がベッドを思い切り殴っても、ボフッという拍子抜けた音がするだけで何の迫力もなかった。その一言で抑えていたのであろう涙がボロボロと溢れだした。俺の顔に雫がぽたぽたと落ちていく。普段美少年と言われているであろう顔を歪ませて、畜生と並木は唸った。


「やっと見つけたと思ったのに、何も覚えていないのかよ…ッ。馬鹿兄貴。それで逃げたつもりなのかよ」


 馬鹿兄貴…どこかで聞いたことのあるフレーズだ。どこだったろう?

 その涙も。何か懐かしいものを呼び起こされるような感覚にいた。昔、よく見たような気がする。アイツはよく泣いていた。何で泣いていたのか、理由もなく泣いていたのか、そこまでは思い出せないけれど。俺はそいつに笑いかけながら、「大丈夫だよ」と、「俺は平気だから」と半分自分に言い聞かせるようにして宥めていた。

 アイツが泣いていると、俺はよく怒られた。アイツが怒られることは一度もなかった。いや、それだけではない。何かにつけてとってつけて、俺はよく怒られていた。だからかも知れない。そうじゃないかもしれない。俺は…それで、ああ…

 頭が痛い。


「お前…」


 搾り出すように出た声も、向かうところは何処にもなかった。お前と言いながら、並木に向けた声ではなかった。

 なぜ俺は今まで死んだように生きていたのだろう。そうだ、俺は今までアレをやっていた…でもやめたんだ。何でもかんでも縛り付けられる人生は嫌だった。でも、やめた先には何もなかった。縛り付けられないと生きることが出来なかったのだ。


「お前は並木か…?」


 並木か、と聞いたのが何故か解らない。さっきから並木だと認識しているし、初対面で彼はそう名乗った。いや、初対面ではない。物心着いた時から、ずっと、並木は俺と一緒にいた…顔も似ない、性格も似ない、趣味も似ない。ただ少し仕事だけは似ていたけれど、それ以外は正反対の…きょう…だい。


「兄さん」


 涙を拭き、はっきりした声で並木は言った。決して明るい声ではなかったけれど、役柄を演じていた時のいつもの生き生きした声に近かった。そうだ、俺は並木の兄だ。並木のことを…弟でありながら、尊敬していたし…憎んでもいた。

そして並木も、俺のことを憎んでいる。

 俺らは憎みあいの兄弟だ。

 「記憶喪失だね」大学の仲間はそう言った。いや、嘘だ。これは夢の中で。本当は大学の仲間なんていなかったんだ。元々家の関係で金はあった。偽名を使ってアパートに登録し、変装しながらスーパーに出かけ食料を確保する以外は、俄然として部屋を出ることはなかった。芸能人であった俺は、声優とは言えある程度の顔は割れていた。毎日をコソコソと、死んだように生きていた。でも、死にたくなかったんだ。死にたくは…なかったんだ。


「…ごめんな」


 すまなかった。ごめんな。悪かった。いつの間にか、今度は俺の目から涙が溢れていた。歪んだ視界からは少し口の先を歪ませた並木がいた。

 一時的記憶障害だった。病院には行っていない。でも、何となく解っていた。心の中で記憶を作り上げ、赤ちゃんから大学生活まで、全てを妄想で補った。何をそうさせたのかは解らない。馬鹿なことだ。


「もう、興が醒めてしまったよ」


 並木はそっぽを向くと、小さく呟いた。


「何でだろうね…兄さんの前だと、憎かったはずなのに…どうしても恨めないの」



 夢を見た。

 小さい頃の夢だった。俺と兄さんは仲良しだった。けれど、兄さんと母さんは違った。生まれた時から俺には父さんがいなかったし、年子…一つ違いの兄さんも物心着いた頃にはいなかったらしい。

 芸能人はよく離婚をするイメージがあるが、父さんと母さんもそれだったようだ。父さん似の猫目を持って生まれた兄さんは、所謂虐待を受けていた。何かにつけて文句を言いながら殴る蹴るをする母さんに、兄さんは何も抵抗しなかった。要するにただの八つ当たりだったのに。

 俺は兄さんが暴力を受けているのを見るのが嫌いでよく泣いていたけれど、しばらくしてそれが虐待の原因の一つになっていることが解った。俺ではなく、兄さんに。全て兄さんだった。俺ら兄弟は程なくして子役を演るようになったが、失敗をして殴られるのはいつも兄さんだった。それも慣れると失敗も少なくなり、俺は俺を心配させないようにする為かもしれないが、決して泣かない兄さんを尊敬していた。幼いから二人でお風呂に入ることもあったけれど、演技では絶対に見えない場所につけられた傷やアザは見るに耐えなかったし、きっと今でも残っているのだろう。

 中学校に上がるとある小さな事件が起きた。夜中に誰かが家の中を歩き回っているような気がすると、母さんに告げられたのだ。兄さんは熟睡しているらしく解らないと言ったが、俺も確かに思い当たる節があり、幽霊かも知れないと思いつつも夜中に見張っていると、兄さんが部屋から出てきて妙な動きをし出したのだ。小腹がすいてものを食べに来たのか、トイレなら普通だと思ったが、その場で演技の練習をし始めたり、友達(勿論そこにいるはずもなく、携帯電話も握られていない)と喋ったりしている。明らかに異常だった。医師に相談すると、夢遊病とのことだった。ストレスが原因らしい。特効薬があれば治ると聞いたので飲ませたが、何の効果も現れなかった。母さんは夢遊病の兄さんに何度も暴力をふるっていたが、彼がその途中に起きることはなく、傷が増える一方だった。

 兄さんはいつも平気そうな顔をしていたけれど、本当は何もされていない俺のことを憎んでいるようだった。

 母さんにとって俺ら兄弟は大事な息子だったそうだけど、明らかに大事にされていたのは俺だけだった。俺はそれを後ろめたく思っていたが、だんだん兄さんにも問題はあるんだろうと、気にもとめなくなっていた。夫はいなくとも、大物女優の仕事ぶりで生活は高水準だったし、駆け出しとは言え俳優の俺も鼻が高かったのだから、本気で尊敬していた。それに、俺は母さんに愛されていた。俺も母さんが好きだったのだ。

 それが俺だけだったのは当たり前のことだ。

 1年前の真夜中、母さんは殺されていた。一部始終を見ていた俺は、何もすることが出来なかった。刃物を持っていた兄さんが怖かった、というのもあるが…そうされるのが当然だと、何となく解っていたからかもしれない。

 兄さんは返り血を浴びながら、蔑んだ目で目前の悪女を睨みつけていた。俺が声をかけても、こちらを向かなかった。

 次の日、兄さんは姿をくらませていた。



 随分と寝ていた。受験生とはいえ、まだ夏休みだ。そして夏休みはこれから。期間は長い。

 兄さんは寝ている俺を殺さなかったし、俺も殺さなかった。吹っ切れた訳ではないが、兄さんに一生罪を負わせることができるのなら…一矢報いることはできたのかも知れない。

 そう思いながら、時計を見ると昼過ぎだった。まあ、たまにはこんな日があってもいいだろう。

 目の先にある台所には、散らばったままの紙束と本の山。ああ、これは…兄さんもいらなさそうだったし、邪魔になるのなら焼いた方がいいかなぁ。そんなこと思いながら、ベッドの方を見た。


 ベッドは、血だらけだった。


「兄さ…ん?」


 そこには、「兄さんだった人」がいた。

 首から大量の血を流して、手元には昨日俺が兄さんちの台所から持ってきた包丁が、血だらけの状態であった。


「なん…で」


 声は思った以上に出なくて、掠れた鳴き声のような言葉が出るだけだった。信じられないようなものを見ながら、家族が本当に誰もいなくなった俺を見て、兄さんは少し、口元を歪ませて、笑ってみせたように見えた。



 end.

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