05
簡潔な言葉ののち、吸い込んだ空気には薬品の匂いの他にかすかなハーブの香りが混ざっていた。無機質な会話ばかりしていたヴィオレの緊張を解きほぐす香りは、浅間にいくつ研究室があろうともここ以外には存在しない。
部屋に入ってすぐに見えるのは、細胞の培養やDNAサンプルの解析を行う作業場だ。薬品棚やコンピューターなど、作業に必要なものが椅子に座ったまま手に届く範囲に収まっているものの、部屋の主である科学者の姿はそこにない。
室内に入って扉を閉めれば、部屋の右側、メインスペースが視界に入る。ローテーブルを挟んで二人掛けソファが向き合っている応接用の構造は、しかしてその用途で使われたことがない。ソファに転がっているパステルカラーのクッションは、ここがハイジアである少女たちの領域だということを如実に表している。
部屋の主がいるのは、その向こう側。
簡易キッチンとハーブの栽培キットが並ぶ、生活感溢れる場所だった。
「あぁ……おかえり。服は用意してあるよ」
白衣をまとった青年は、ヴィオレの姿を見とめるなりそう言った。
一糸まとわぬヴィオレを見て表情を曇らせたのは彼──御堂祐樹だけで、実際青年は同業者から変人扱いを受けている。
ただ一人、ハイジアをヒトとして扱う人間として。
「まったく……外へ繋がるエレベーターなんて君たちしか使わないのに、いまだに更衣室のひとつも作らないとはね」
独り言のようにぼやく青年に同意していいものか悩みながら、ヴィオレは出入り口からもっとも離れたところにある簡易ベッドへ向かう。カーテンで周りを囲める作りになっていて、ちょうど御堂の立っている場所からはベッドが見えないようになっていた。