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心境の変化か、あるいは通信相手の変化か、もしくはその両方が、ヴィオレの声から硬さを抜いていた。
「戦闘行動に移ります!」
ペストが視界に入ったのなら、もうスタミナを考慮する必要はない。
可能な限りの速力で、数百メートルの距離を詰める。ペストもこちらに気づいたようで、迷いのあった足取りに明確な意思が現れるようになった。
「外観からの推測を述べておく」
ヴィオレは、意識の片隅でレゾンの言葉を捉える。
「退化した眼球と発達した耳の形状から見て、反響定位を獲得しているらしい──音で相手の位置を把握する力のことだ。これで浅間の位置を特定したようだな」
音、と小さく繰り返す。
それは、なかなかに面倒な要素だった。念動力自体は無音であっても、ヴィオレは自ら動かなければペストに有効打を与えられない。動きによって生じるかすかな音であっても拾うのであれば、どうしても接近の際に位置を把握されてしまう。
ファーストコンタクトで敵の機動力を削ぎ、隙をついて本命の一撃で仕留める手法は、浅間内ではあまりに難しい。すでにお互いを知覚しあっている今はなおさらだ。
「やりにくい……」
ぼやきながら、ヴィオレは制動をかけて進路を右斜め前方へ変更する。正面からぶつかり合うのを嫌ったからだが、ペストは敏感に反応。周囲の住宅にも劣らぬ巨体で器用に道に侵入すると、ヴィオレに口吻を向けたまま臨戦体制に入る。
ペストの巨体では、建物に挟まれた道で体の向きを変えるのも一苦労だ。ヴィオレはさらにペストの横腹を狙うような軌道をとり、接近を試みる──が、そのせいで相手の動きに気づくのが遅れた。
ペストの口が開く。
けれど、先のペストとは違い、口内にあふれ出る炎はない。
「──っ!」
咄嗟に足を止め、体の前面に念動力を展開。火柱すら遮った不可視の壁を作り、攻撃に備える。




