04
達観していると言ってもいい。ヴィオレが欲しかったものは、もう手に入らない。拠り所のないヴィオレが生きていてもいいのだと思えた可能性は、もうどこにもない。
ヴィオレにとって封印計画は、それほど大きいものだった。自分が生きていてもいいと思うために、誰も知らないところで仮死状態になる。どこに問題があるだろうか。ただ生きているだけでは認められないのだから、役に立てるただひとつの方法を実行しなければいけなかったのだ。
その可能性を、御堂とレゾンは奪った。彼らはヴィオレに優しくしてくれたかもしれないが、対価として払った他者からの扱いはあまりに大きすぎる。
「ちゃんと作らなかったのに、まだ私にはちゃんと働けって言うの?」
怒りの熱が、一周まわって冷え切っている。ここまで訳の分からない言動を続けられたのだから、無理もないことだった。
だというのに、御堂は懐から無線機を取り出した。浅間の外に出る──ペストと戦うハイジアへ支給される、戦うための道具だ。
「できれば、そうしてほしい」
一転。冷たさは熱さへ変化した。
厚かましくも甘い口を叩いた御堂に、ヴィオレは初めて血が沸騰するような錯覚を覚える。足を踏み出すと同時に念動力で地面を弾き、距離を詰めた勢いそのまま白衣の胸元を掴んでさらに前進。鉄の扉の向こうにある階段の手すりへ御堂の背中を叩きつけた。
「──っ!」
「本気で言ってるの?」
さらに腕を伸ばし、御堂の上体を手すりの外へ押し出す。もしヴィオレが手を離したら、重さに引きずられて頭から落下するだろう。たったワンフロア分の高さとはいえ、死ぬ確率の方が高い。
「私のことだけじゃない。他の命も蔑ろにしてるのに、そんなことが言えるの?」
背中を強打して一瞬呼吸の止まった御堂に対し、ヴィオレはさらに言いつのる。
「念動力のペストが殺した四人のハイジア、知ってる?」




