03
びくりと足を止めた御堂は、なにを言おうか迷っているようだった。疑問が最初に出てこないということは、おそらくレゾンから全て聞いたのだろう。ヴィオレは適当に推測したあと、約束は守れないなと頭の片隅で思った。
みんなが浅間に戻ってきたら、御堂の研究室に行く。ただそれだけのことも、今のヴィオレにはひどく難しい。
「なんで会いにきたの?」
不快感は隠さなかった。
今はレゾンの声を聞きたくないし、御堂の顔も見たくない。そんなことは二人とも分かっているはずだった。
「ペストが、出たからだ」
「そう」
「浅間の中に」
「……へぇ」
そんなこともあるんだ、と無責任に続けてみせると、御堂は驚いた顔をした。
「わざわざ地下を掘り進んでくるなんて、物好きなペストもいるんだね」
「そんなことを言ってる場合じゃ──」
「なんで?」
はぐらかすつもりはない。
ヴィオレからすれば、これはまっとうな疑問だった。
「ペストが怖いの? 浅間を守りたいの? 死にたくない? 別にどれでもいいけど、そんなにハイジアにペストを倒してもらいたいんだったら、ちゃんと作ればよかったのに」
分からない。
わざと低いスペックのハイジアを作っておきながら、前線に送り出す理由が。
意図的に作った失敗作に、すんなり自分の命を預ける神経が。
「私はちゃんと働いてきた。でも、ペストを倒したくらいじゃあ、誰も私のことを認めてくれない。今回の一匹だって同じでしょ。私が出るときなんて、大抵は塔の近くまでペストが接近したときで、今の状況と大して変わらない。私が出なければ浅間にダメージがあったかもしれないのに、私の扱いは失敗作のままじゃない」
御堂が苦々しく表情を歪めるのを、ヴィオレは妙に凪いだ心で見つめていた。




