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片方は、浅間の外へ直通するハイジア専用のもの。
もう一方は、各層を移動する人間と物資のためのものだ。
その景色は、浅間の外にも似ている。見張り台のある塔は、エレベーターを擁する柱と同じものだ。似ても似つかない青空もどきを無視すれば、ヴィオレが守ってきたものはこの柱だったようにも思えてくる。
三層に分かれた浅間の構造など、知識で理解していても想像はしにくい。実感の湧かないものより、分かっているものの方が守りやすいのは当然のことだ。
ヴィオレはいつも、浅間の塔を守ってきた。
本来の役割を果たせないなら、せめてそれだけでもしなければならないと思っていた。
そこまで考えて、ヴィオレは自嘲の笑みを浮かべた。視線を上げすぎて落ちかけたフードを押さえながら、下を向く。
「……本当に、バカみたい」
五年間浴び続けたため息はなんだったのだろう。
十年前、浅間の外から戻ってこなかった四人のハイジアはなんだったのだろう。
彼女たちの一人たりとも、ヴィオレは忘れたことはない。見張り台で保護され、レゾンの元で教育されたヴィオレを、当時活躍していたハイジアたちは妹のようにかわいがっていた。
自分を担当する科学者をけなしたり、体を晒さなければならない研究所の構造に愚痴を言いながら、かしましく笑い合っていたのを、今でも覚えている。
「ヴィオレ」
絞り出すような声で名前を呼ばれ、ヴィオレは気だるげに顔をあげた。
開きっぱなしにしていた鉄の扉から、ちょうど御堂が屋上へ出てくるところだった。運動性など欠片も考慮されていない室内履きで、ここまで走ってきたらしい。彼が肩で息をしているのは初めて見る。
「来ないで」
自分でも驚くくらいに冷たい声が出た。




