05
外壁を隠すように広がる森林は、それほど幅が広くない。閉鎖的に見える地下空間をなんとかごまかすためのもので、広さを必要としたわけではないからだ。
森を挟んではいるが、ペストと住宅地の間には実際一キロの距離もない。
「周囲十地区に避難命令を出せ。レゾン、ヴィオレはどこだ?」
ヴィオレ。その名を聞いた瞬間、電脳にノイズが走る。
ノイズは接続されているアウトプット装置にも反映され、イヤフォンから雑音が聞こえたらしい萩原から訝しげに声をかけられた。
「レゾン?」
「ヴィオレは──今は不安定だ」
なにも、こんなタイミングで。
レゾンは愕然とした。ついさっき自分が吐き出した懺悔さえなければ、ヴィオレはためらいなく出撃命令に応じただろう。けれど、今のヴィオレはあまりに弱すぎる。
ペストと戦う理由がない。浅間を守る意味がない。
そこまで考えてもおかしくないことを、レゾンはした。知る必要のない事実を教えてしまったのだ。ただ、自分の過ちを軽くしたいがために。
自分が罪悪感に負けなければ──エラーを巻き起こす思考が、消去を繰り返してもとめどなく溢れてくる。
「不安定? 今はそんなことを言っている場合じゃない」
「しかし」
「他のハイジアの到着を待つ余裕を作れたとしても、中層へ送り込むのは最後の手段だ。周辺への害をもっとも抑えられるのはヴィオレだろう」




