表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハイランド・ハイジア  作者: 射月アキラ
第2章
24/55

20

 念動力のペストは、浅間が初めて相対した脅威だった。

 だから、念動力のハイジアを作るのだって初めてのことだっただろう。

 誰だって最初は間違える。念動力のハイジアがうまく作れなかったのは、きっと単純なミスで、次また同じペストが現れれば、思い通りのスペックが発揮できる。

 それなら、ヴィオレが失敗作であることにも意味がある。

 科学者たちからの白眼視にも耐えられる。他のハイジアより不利な戦いにも耐えられる。四人のハイジアを犠牲にして手に入れたものはちっぽけだったけど、また次に生かせるならば悪いことではあるまい。

 ──そう、思っていた。

「バカみたい」

 いつの間にか、ヴィオレは口に出していた。

 表に出す前にいつもつっかえてしまう本音が、今はやけに素直だ。

「バカみたいじゃない……私が」

 ヴィオレ、と呼ぶ声が遠く聞こえた。

 もう名前を呼ばれることすら嫌だ、とヴィオレは思う。紫の意味を持つ名は、ハイジアになると同時に与えられた識別コードのようなものだ。

 ヴィオレとは、希望を一身に受けた名前だった。

 ヒトでは存在し得ない紫の光彩は、世界の放射能汚染を止める希望が込められていた。浅間に閉じこもる生活が終わるかもしれない未来を、ヴィオレという名に見たのは何人だったのだろうか。

 多少ペストをうまく殺せるようになったところで、失敗作のヴィオレに向けられる視線が変わるはずもない。ヴィオレに期待していたのは、そんなことではなかったからだ。

「ちょっとでも期待に応えようって思ってた私が、バカみたいじゃない」

 ヴィオレはフードをかぶった。そして、最下層から出るためのたったひとつの階段を、逃げるように駆けあがる。

 スピーカーから聞こえる雑音も、右足首が放つ痛みも、何もかも無視してひたすらにヴィオレは走り続けた。

 もう、誰のことも信用できそうにない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ