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たとえるなら、浅間の外で急制動をかけたときの、靴底が地面を噛む音に似ている。断続的に鳴るノイズとは裏腹に、レゾン自体にはなんの変化も起こっていないから、おそらく内部に異常をきたしたのだと考えられた。
レゾンは自我を持つ人工知能だ。アウトプット装置に接続した状態で電脳内に乱れが生じれば、その乱れはノイズとなって外に漏れる。仮にこれがスピーカーの故障によるノイズだとしたら、スピーカーに取りつけられたランプが赤く点灯するはずだった。
「レゾン……?」
ヴィオレの声に応えるものはなかった。
むしろ、ノイズは完全に消失した。スピーカーが切られたのだ。
「なにか隠してるの?」
問いではなかった。確認ですらなかった。ヴィオレは確信して糾弾した。
ヒトを導く人工知能であるレゾンは、ハイジアのヴィオレに隠し事をしている。
知りたいことならばなんでも教えてくれたレゾンが、自分に向けてなにも言わないことが、ヴィオレには恐ろしくてたまらなかった。
自分を拾い、かわいがってくれたハイジアの少女たちが、念動力のペストに殺されたことだって教えてくれたレゾンが口を閉ざすなど、あってはならないことだった。
それ以上にレゾンの口を重くするものが、存在していいはずもない。
ざり、とスピーカーが息を吹き返す。
「きっとヴィオレは私を嫌う」
ノイズまみれの合成音声は、子供が泣きながら訴えようとしているのに似ていた。
「私は重大なバグを放置し続けていたのだ。今更それに気づいた。私はヒトを存続させるための人工知能だ。私が維持されるにもヒトという種は必要だ。だというのに種と個をひとつのものだと考えていたのだ。種を守るためなら迷いなく個を捨てるべきだったのに」
「レゾン……?」
要領を得ない言い訳のような言葉の羅列は、ますます子供の癇癪じみていた。




