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「ハイジアの適性は、放射能汚染に深く関わっている。放射能はDNAの軽微な損傷をもたらすが、その修復が繰り返されるたびに結合がゆるんでペストのDNAを仕込みやすくなる。同時に、DNAが重大な損傷を受けるリスクが高くなり、ガン化する可能性がある──と、何度も言ったはずなんだが」
「うん、そんな気もしてきた」
ヴィオレは茶化すように返したが、その内容のほとんどを理解していない。
自分はハイジアになるのに都合がよかった。それだけで十二分に意味があった。理屈や理論をこねるのは科学者の役目だし、ヴィオレはそれを得意としない。
「本来なら、ヒトはヒトが育てるべきだ。が、拒否されたなら私が育てるしかあるまい。それに──科学者は検体を検体としてしか見ないからな」
「私を育てたのは消去法だった?」
「本音を言えばな。けれど、その点において後悔はしていない」
そこで一度、レゾンはスピーカーを切った。ぷつり、という音を最後に、最下層は束の間沈黙に包まれる。
気にするほどの長さではない。けれど、言い逃げのようにも思える。ヴィオレはもう一度金属球を見上げた。
「私にとって、人間は複雑すぎてならない」
再び電源の入ったスピーカーから、レゾンがぼやいた。
「ヴィオレはハイジアになりたかったか?」
「うん」
「なんのために?」
「なんのため、って……」
難しくない質問のはずだった。
ヴィオレの前に、そういうレールが敷かれていたからだ。レールを敷いたのはレゾンで、言われるがまま、教えられるがままに生きてきたヴィオレに拒否権などないし、権利を放棄するのも当然の流れだった。
しかし、その答えは全てを語っていないような気がする。
ついさっき咄嗟にはぐらかしたなにかが、掴みとれなかったなにかが、ヴィオレの前に尻尾を見せていた。
「私がなにかの役に立てるから」
息をのむように、ノイズが消えた。




