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ハイランド・ハイジア  作者: 射月アキラ
第2章
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16

「ハイジアの適性は、放射能汚染に深く関わっている。放射能はDNAの軽微な損傷をもたらすが、その修復が繰り返されるたびに結合がゆるんでペストのDNAを仕込みやすくなる。同時に、DNAが重大な損傷を受けるリスクが高くなり、ガン化する可能性がある──と、何度も言ったはずなんだが」

「うん、そんな気もしてきた」

 ヴィオレは茶化すように返したが、その内容のほとんどを理解していない。

 自分はハイジアになるのに都合がよかった。それだけで十二分に意味があった。理屈や理論をこねるのは科学者の役目だし、ヴィオレはそれを得意としない。

「本来なら、ヒトはヒトが育てるべきだ。が、拒否されたなら私が育てるしかあるまい。それに──科学者は検体を検体としてしか見ないからな」

「私を育てたのは消去法だった?」

「本音を言えばな。けれど、その点において後悔はしていない」

 そこで一度、レゾンはスピーカーを切った。ぷつり、という音を最後に、最下層は束の間沈黙に包まれる。

 気にするほどの長さではない。けれど、言い逃げのようにも思える。ヴィオレはもう一度金属球を見上げた。

「私にとって、人間は複雑すぎてならない」

 再び電源の入ったスピーカーから、レゾンがぼやいた。

「ヴィオレはハイジアになりたかったか?」

「うん」

「なんのために?」

「なんのため、って……」

 難しくない質問のはずだった。

 ヴィオレの前に、そういうレールが敷かれていたからだ。レールを敷いたのはレゾンで、言われるがまま、教えられるがままに生きてきたヴィオレに拒否権などないし、権利を放棄するのも当然の流れだった。

 しかし、その答えは全てを語っていないような気がする。

 ついさっき咄嗟にはぐらかしたなにかが、掴みとれなかったなにかが、ヴィオレの前に尻尾を見せていた。

「私がなにかの役に立てるから」

 息をのむように、ノイズが消えた。

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