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ハイランド・ハイジア  作者: 射月アキラ
第1章
2/55

02

 男の言う通り、ネズミの左目は潰れ、左耳は一部が噛みちぎられている。黒い体毛に覆われて見えないが、他の部位にも傷を負っていることは容易に想像できた。

 争いに負け、生息に適さない土地に追い込まれたとなれば、大抵の生物は衰弱してそのまま死ぬ。いくら巨大化したとしてその摂理は変わらないのだから、モニターに映っているネズミも本来なら気にかけるほどの存在ではない。

 地下都市・浅間の直上に居座ってさえいなければ。

「迷惑な話だ」

 思わずこぼれた呟きは、萩原の本音だった。

 なにより、タイミングが悪すぎる。近辺で群れを形成しようとしていた大型のハエたちを掃討するのに、主な戦力を浅間から離した途端の出来事だ。

「ヴィオレ、目標を視認」

 不意に、萩原が片耳につけていたイヤフォンから、ノイズ混じりの声がした。

 緊張のせいか硬くなってはいるものの、それは紛れもなく年若い少女のものだ。砂をこするようなノイズがいつまでも抜けないのは、彼女が通信環境の整っていない地上にいることを示している。

 大型ネズミの居座る、放射能に汚染された地上に。

「戦闘行動に移ります」

 少女の宣言と共に、ネズミが映るモニターに動きが生じた。

 ヴィオレ──「紫」の意味を持つ名の元となった髪の色が、モニターの上方から現れる。

 短く切りそろえられた髪を揺らし、ヴィオレは危なげなくネズミの腰へ着地。勢いそのまま骨盤を踏み砕く。

 ぎぃ、とネズミから漏れた悲鳴が、ノイズの隙間から萩原の耳に届いた。

 ヴィオレの体格は、巨大ネズミと比べても小柄に見える。高所から飛び降りたとはいえ、骨盤を踏み折るなど小さな体で引き起こせるような現象ではない。ずり、と後ろ足を引きずるネズミの姿を見れば、そのダメージの深さも想像しやすい。

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