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 警官の叫び。

 見ると、凍ったはずのニンギョウが動いているではないか。

 体が前後する度に、ボロボロと体が崩れる。

 零れた部位が、アスファルトに当たり、雪のようにボロリと壊れる。

 「どうして?」

 陸上へ戻った小鳥が、僧侶たちの避難を完了させ、現場へ走る。

 「あや姉!」

 「まだ、動いているじゃないか!どういうことだ!」

 神間の怒号に、小鳥は言った。

 「考えられるのは、本体自体の怨念が強すぎて、完全には拭いきれなかったということです」

 「潰すには?」

 「残されているのは、物理的な破壊しかありません。ですが・・・」

 そう、物理的攻撃の結果は、目に見えていた。

 マスタードガスが流出する。

 だが、そのまま放置していたら、振動で砲弾が落下する。

 瞬間、あやめは微笑した。

 「出してやればいいのよ」

 「え?」

 「あのニンギョウは、ブードゥーの1体がブレインとなって、ボディを動かしているに過ぎないわ。

  だったら、頭部を破壊して、脳を取り出せれば、後は・・・」

 核を成しているのは、ワニのようなグロテスクなぬいぐるみただ1つ。

 そいつは人間でいうところの眉間部分にいる。

 CZ-75を取り出しながら、大介は言った。

 「俺の出番か?」

 だが片手で制止し

 「できれば寺崎さんに。日本警察でトップクラスの射撃の腕がある彼なら・・・」

 そこへ、信者を追跡していた班が戻ってきた。

 当然、高垣、寺崎両刑事も。

 「すみません、見失いました」

 息を切らせ、高垣が報告した。

 「そっちは」

 「一難去って、また一難。寺崎さん、狙撃の準備、できますか?」

 「ああ、でも、ライフルが」

 「私の車に、チェイタックを積んでいますから、それを使ってください」

 「分かった」

 寺崎が去ると、無線で処理車を動かすように言い、あやめは目を閉じた。

 全神経を集中させている。彼はすぐに感じた。

 防護服の捜査員が車内に戻り、車がバリケードの傍まで来た。

 視界に、ニンギョウを遮るものはない。

 すぐに寺崎は戻ると、手にしたケースを開くき、素早くライフルを組み上げた。

 「照準は?」

 「眉間を」

 両手でライフルを構え、仁王立ち。照準をニンギョウ頭部に合わせた。

 直線距離で700メートル。2kmもの長距離射撃を目的に作られたチェイタック M200には、力が余る距離だ。

 無風の中、彼の指が引き金にかかった!

 (行け!)

 引き金を振動させるように細かく撫でる指。

 放たれた銃弾が頭部を破砕。否、頭そのものが消えた。

 「やったか?」

 その中から現れた、ワニのようなグロテスクなぬいぐるみ。

 体に纏った霜を振り落した。

 「当たったはずだぞ?どうなっている?」

 「凍っていなかったのか?」

 こちらを睨みつけると、飛び上がり、琵琶湖へと向かい走り始めた。

 滑空する存在。

 「逃がさない」

 あやめはつぶやくと、ぬいぐるみの後を追う。

 岸壁に着くや、湖に両手を向けた。

 「氷花、弓!」

 両手で錬成された氷の弓矢。瞬時に構え、矢を標的に向ける。

 「ダイスケ!あれを」

 「どういうことだ?」

 足元でくすぶる、液体窒素の煙が巫女の体を包み始めると、それは氷の弓矢に纏う。

 無風の港。どこからか風が吹き、下からあやめ包む。

 スカートが、装束が、髪が舞い上がる。

 「ものすごい妖気・・・」

 小鳥も圧倒される気配。

 鋭くも穏やかな眼光が、漆黒と同化した相手を見定めた。

 (これで終わりよ!)

 「砕け!」

 張り詰めた弦が風を切り、矢枕を発った矢は、風と煙を巻き込みながら、標的に向かって一直線に湖を滑る。

 その速さを、ぬいぐるみは凌駕することはできない。

 距離が瞬時に縮み――――

 青い炎と共に、水柱が上がった。

 空気が震え、風が湖岸を滑る。

 不意にあやめの足元に、何かが落下する。

 それは、青い炎に包まれたぬいぐるみの顔。

 口を動かしながら、それは灰になり、どこかへと吹き去って行った。

 それを確認すると、彼女は弓を水へ戻し一息。イヤホンマイク越しに言うのだった。

 「各員へ通達。状況終了。繰り返す、状況終了」

 イヤホンマイクを耳から外して、再び琵琶湖を眺める。

 静寂が、そこにはあった。

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