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「馬鹿な真似はやめろ!」
「奴の足が止まった。このままじゃ、ニンギョウは要塞になる。それを防ぐには・・・」
あやめはイヤホンマイクを掴んだ。
「小鳥、準備して」
―――あや姉。
「ノープロブレム」
そう明る気に言うと、交信を切った。
ヘリの強風で、緋色の巫女装束が一層なびく。その表情はクールフェイス。
「行くわよ!」
ワルサーP99を強く握ると、スカートをなびかせ、パトカーのボンネットを一蹴、大介の頭上を飛び去った。
「背伸びしやがって」
そして大介は叫んだ。
「彼女を援護しろ。妖怪も人間も、命は1つきりだぜ!」
突進するあやめ。両手で握った銃から、間髪入れずに銃弾を発射する。
距離を取り、続いて右回りに牽制。銃創を交換しながら走る。
その間に、彼女は気づいた。
(ヘリの風で、少しずつだけど進んでる。もう少し)
足元がずるずると、前へ動いている。
再び右腕が、天に向けて開かれた。
彼女が足を止めたと同時、発射されるぬいぐるみ。
刹那、あやめは銃を捨て、琵琶湖へと走る。だがそれは、ニンギョウの前を通過することも意味していた。
「あやめ!」
大介の叫びも空しく、ホバリングでかき消される。
左腕に握られた包丁。走り迫るあやめに向け、振り上げられた。
「やあああっ!」
巫女は体勢を崩し、ニンギョウの足元をスライディング!
振り下ろされ、手から離れた包丁は彼女に当たることなく、アスファルトの地面に。
刃先が折れた。
「うっ!」
スライディングした先は、船着き場。そのフェンスに体をぶつける。
激痛が体を走るが、それを味わっている暇はない。
背後は琵琶湖。今しかない。
「氷花!弓!」
両手を上げ、現れるは氷の弓矢。
それを思い切り引くと、すぐに上空を飛ぶぬいぐるみに。
眼下では、救急隊が負傷した警官の処置をしている。
「あたれええええええっ!」
叫び声と共に放たれた氷の矢。
空気を切り裂いて、空に閃光を。
瞬時に来る熱気と衝撃。琵琶湖ホテルの全ての窓ガラスを破砕する。
「おい!爆発するなら、一言言ってくれよ!」
パトカーの陰から叫ぶ大介に、あやめは微笑して言った。
「それくらい、感じ取りなさい」
と、同時にささごいから交信。
―――マルタイが、所定位置に到達しました。
「了解!」
周波数を切り替え
「全部隊、攻撃中止。小鳥、やって!」
―――待っていました!
銃撃音が止んだと思いきや、3方向からリズミカルな音が聞こえてくる。
木魚の音だ。
ニンギョウの背後にあるマリーナ、炎上する護送車の遥か後方、そして琵琶湖上。
作戦の第二段階が始まった。
だが
「がはっ!」




