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77 添付動画

 画面は終始暗黒、否、積まれた本にカメラが隠されている模様。

 日時は鈴江が滋賀に向かう直前

  

 渡瀬「何を企んでいる?」

 野々市「どうしたんですか?唐突に」

 渡瀬「話は緒方から聞いた。正気なのか、ひとりかくれんぼで呪いの人形を作ろうだなんて」

 

 野々市、無言

 

 渡瀬「お前が何をしようと知ったことじゃない。だが、後輩を危険にさらすことはできないんだ」

 野々市「ならば、君も同罪だな」 

 渡瀬「それは、お前が―――」

 野々市「話していれば、か?それはただの責任転嫁だ。

    君は学園祭に間に合わせるために、どうしても埋め合わせがほしかった。

    部員が病理停学ならば不可抗力だから、誰を責めるわけにもいかない。それでも、作品の質を落としたくない。だから僕の話にのったんだろ?そうでなかったら、こんな事を後輩にさせるか?」

 渡瀬「それは・・・いや、それはお前の“滋賀県の琵琶湖西側に住む生徒に、この企画をやらせろ”と」

 野々市「これ以上の言い訳は無用だ。君は僕と同類だったのさ」

 渡瀬「どういうことだ?」

 野々市「分かっているんだよ。君が密告者だって・・・僕が作った、あの動画の密告者だと!」

 

 渡瀬、無言。

 

 野々市「聞くところによると、今の映像サークルは君と緒方君が大きくしたそうじゃないか。

    それまでドキュメンタリー調の作品だったのが、内部分裂した演劇サークルの派閥と手を組むことで、映画作品を作るに至った。君が1年で初監督をした時さ。

    公開される作品は大好評。その期待の声は年々大きくなっていった」

 渡瀬「・・・」

 野々市「僕もね、そうだったんだ。

    学園の場末の映像部で、ちょっとしたお笑い動画を、先輩の声を押し切って公開した途端、大好評。そのプレッシャーは大きくなっていった。何せ、部長の声で学園祭以外に、学内で年2回も新作を公開しなければならなくなったんだから。

    それだけ、ネタはすぐに尽きていく。

    観客は何を求める?笑い、つまりは結末さ。結末さえしっかりしていれば、どんな駄作でも許される。だから、わざわざ県外に遠征して、いたずら動画を撮ってやったのさ」

 渡瀬「じゃあ、あの映像の作品は全部・・・」

 野々市「マンホールの上で、おじいさんが転倒する動画。傑作だっただろ?

    あれも、芦屋まで行って撮ったのさ。雨上がりのマンホールに、ローションを塗ってね。

    全ては順調だったよ。自転車の件まで。

    まさか、車とぶつかるなんてね。交差点に隠しカメラを置いたら、衝撃映像の完成さ」

 渡瀬「・・・」

 野々市「無論、映像の抹殺も考えた。でも、締め切りまで時間がなかった。このまま映像を使う以外、方法はなかった。

     そこで学内での特別作品として上映した・・・どうやって、あの作品を見た?」

 渡瀬「分かっているんだろ?

    あの日、ブースとなった教室に唯一存在した忘れ物。俺の学生証が入った定期入れさ。

    それを取りに来たのが、特別上映の直後。その時に盗み見したんだ。

    恐らく、それが無くても、学内の誰かがリークしたに違いない」

 野々市「あり得ない。客はエンターテイメントを見て納得しているのだから」

 渡瀬「・・・私の選択は、間違えてはいなかったみたいだ」

 野々市「ん?」

 渡瀬「君の通っている京都芸術産業大学に、過去の事件と君の事をリークしたのは、俺だ」

 

 再び、無言。

 途端、陶器の割れる音と、パイプいすの倒れる音。

 

 野々市「どうしてだ!お前は映像の分野で成功し、俺は地の底!」

 渡瀬「やはり、ここに来たのは、俺への復讐か」

 野々市「そうだ!俺はコース変更の後、ある団体に入団した。そこの皆さんは、俺の事を理解してくれたんだ。俺は、映像を作るべき男。だから、今回の企画を任されたんだ」

 渡瀬「その団体が、あの人形を・・・」

 野々市「俺がやってもよかった。だが、単位相互協定先の都古大学に映像サークルを見つけて、興味で見学すると、渡瀬、君がいた。

    君は俺に気づいていない。幸運にも、君の企画はとん挫寸前。これを利用しないで、どうする!」

 渡瀬「氏名が変わっていたから、もしかしたらとは思ったさ。でも、君の言うとおり、俺は自分の企画のために自分の正義を売った。シナリオに書かれた心霊企画、その代替になればと、君の案を・・・。

   俺が馬鹿だった、鈴江君には、謝っても謝りきれない」

 野々市「俺を外すか?この部活から。

    するがいい。その瞬間、団体が動き出す」

 渡瀬「どういうことだ?」

 野々市「こうなるかもしれないと思ってね。女生徒を数人、拉致させてもらったよ。

    よっぽど美男がいないんだろうな。俺の周りに何人も寄ってきてね」

 渡瀬「貴様!」

 野々市「私をサークルから外したり、他人にこの話をすれば、すぐに女生徒を我々の計画の駒として使わせてもらう」

 渡瀬「野々市!お前の言う計画って・・・何を企んでいる!」

 野々市「これから起こる異端審問のための狼煙さ」

 渡瀬「お前の言う団体って・・・カルトか?」

 

 野々市は深く息をつく。

 

 野々市「君に強迫材料をかけたんだ。話してやろう。

   信じられないだろうが、あの人形には怨念が内包されている。ブードゥーの系統を引く、とあるカルト教団からの横流し品さ。実績もある。

   こいつを滋賀県内で覚醒させ、県内で連続殺人を起こしながら南に進んでもらう。そのように術をあらかじめかけている。

   つまり、鈴江君の役目は言わば電子レンジさ。冷凍された飯をチンしてもらうんだよ」

 渡瀬「それだけか。どうして滋賀なんだ」

 野々市「警察や世間の目を滋賀に向けれればそれでいい。その間に、我々は奈良の臨仰市で準備をする。

    そしてニンギョウはいずれ人口密集地から外れ、山の中を進みながら臨仰市に到達する。

    気づいた時にはもう遅い。ニンギョウに仕組まれたもう1つの情報、臨仰市到達後、無差別に人を殺せという指示を実行し、同時に臨仰市の主要施設と臨仰教本部を爆破する。

    臨仰市無差別テロ事件の開幕さ。

    そう、わかったと思うが、ひとりかくれんぼを君がキャンセルしても、臨仰市への攻撃は実行されるからな」

 渡瀬「そんなことをしたら、大勢の人が死んでしまう!」

 野々市「死ぬことに意味がある。異端は殺していいんだ。教団ではそれが、最大教義なんだから」

 渡瀬「・・・君を止めるべきだった。殺人とエンターテイメントの境界が分かっていないお前を、殺してでも止めるべきだった!」

 野々市「黙れ!お前に何が分かる!」

 渡瀬「観客が魅了するのはエンターテイメントの中のハプニングだ。それが大けがをする悪戯でも、殺人でもだ。なんせ、目の前に広がるのは非日常、非現実。だが、ハプニングから生まれるエンターテイメントなんて、どんな正当な理由をつけても、それは犯罪なんだ・・・現実なんだよ!非現実を求める観客に、現実を見せてはいけないんだ!

   観客が笑ったのは、現実なら笑ってはいけない光景を、スクリーンの向こう側に押し込んで、あたかもそこに自分はいないと無意識にしらを切っているから。だから笑えたんだ。あくまで目の前にある光景は、非現実だったから。

   君の撮った自転車事故を見た後の客の顔を、君はじっくりと監察したかい?誰しもが、下を向いていた。誰しもが笑顔なんて浮かべていなかった」

 野々市「ウソだ!みんな、笑顔で―――」

 渡瀬「それは、君に対する作り笑いだ。あの瞬間、君はエンターテイナーではなくなったのだよ!」

 野々市「認めんぞ。そんな作り話!」

 渡瀬「君の作品は、絶対に観客を魅了なんてできない!」

 野々市「これ以上言えば、女生徒がどうなるか・・・」

 渡瀬「・・・そういうことか、計画の駒」

 野々市「どういうことだ?」

 渡瀬「お前、今まで映画を何本見た?」

 野々市「200本以上はな」

 渡瀬「それで、分からないのか」

 

 黙る両者

 

 渡瀬「こういう時の上等文句は“女が殺されたくなかったらば”・・・だろ?」

 野々市「・・・」

 渡瀬「計画の駒。ウチの生徒を、自爆テロにでも使う気か?・・・許さん!」

 野々市「だったら尚更、言うとおりに行動しろ。鈴江に、ひとりかくれんぼをさせるんだ。

    それ次第では、臨仰市への攻撃を早めるかもしれないんだからな」


 黙る渡瀬


 渡瀬「なあ。あの時、どうしていればよかった?

   黙ってればよかったのか?それとも・・・あれ以来、俺は自分が信じられない」

 野々市「口はどうとでもいえる。知ったことか。

    俺は帰る。もうすぐ鈴江君が、カメラと人形を取りに来るんだろ?

    後はしっかりとやるんだぞ。渡瀬部長」

 

 ドアがスライドする音が、間隔を開けて2度。

 渡瀬のため息。

 カメラに光が差し―――

 

 ここで、映像は途切れた。

 

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